1 / 9
第1話 見つけた!僕の……
「アレイさんですか!?」
突進するかのように、詰め寄って『アレイさん』のトレードマークの、長く金色に輝く髪がたなびくのをそっと見つめ、僕はドキドキしていた。
だって、歩く伝説! その人が僕の目の前にいるだから。
冬の寒さはなんのその! 行き交う街中の人々は師走を体で表現したように、皆忙しそうに歩いている。
僕はといえば感動から震えが来てしまう。
僕を刺激してやまない人『アレイ・プロメス』さん。二十四歳。
人はこの人を『地獄の門番、ケルベロス』と呼ぶ。
決して人に懐かない。
「ん︙…? まぁそうだけど、お前、誰?」
キョトンと見つめてくる視線に僕はもう、心臓がドキドキとまるで、発作を起こしたみたいにときめいてしまって、持っているヴァイオリンケースを握る手が熱くうずいてしまう。
(先輩! この人が噂の、僕が尊敬しまくってる人。彼女を守るためにボクサーとやりあって、無傷で勝った人……とか、警察に囲まれても物怖じせずに、がくがくと震える相手を『こいつが犯人だから連行したら』とか言った人。マジカッコイイ!)
僕とは違って長身で、クールに見せる風貌と、そっけない視線。でも意外だったのが、もっとギラギラしているのかと思ったら、優しそうな目で、翡翠の大きな瞳が僕を捉えて、警戒するでもなく、見つめてくるだけだった。
(普通だったら、赤の他人に『ろくに』というか、初対面の僕に何故か名前を呼ばれ、声をかけられて不審がらないのだからすごい。
ましてやいきなり僕が名前を呼んだのにも関わらず、余裕そうな仕草で手には可愛いぬいぐるみときた。
流石は『ケルベロス』という異名を持つだけのことはある。それにしてもぬいぐるみに違和感を覚える。なにこれ、彼女にでもあげるのだろうなどと思っていたら)
「それ何?」
僕が抱えているケースをみて訝しげに問う。でも、こんな町中で広げるわけもいかないし、行き交う人の視線もなんだか痛いし、僕はつぶやいた。
「ヴァイオリンです」
「へー、弾けんの?」
「勿論です。僕の大事なパートナーです」
パートナーのヴァイオリンは人間じゃないから、声にはでないけど、きっと僕がパートナーと告げたことに喜んでくれていたらいいなって思ってた。
「とりあえず、こんなとこで立ち話しても仕方ないから飯食わね?」
「え、あ、僕はまだお腹……『ぐぅ~』――」
「今日はいい気分だからおごってやるよ。新作のこいつも手に入ったしな。嫌か?」
「滅相もございません! ご一緒させてください」
断ろうとしていた言葉よりも先に、口をついて出た言葉は『着いていく』の一言だった。
ともだちにシェアしよう!