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第9話
「えー、清水時春?マジ?
うわぁ、いいなあ、俺も会いたかった」
地元の友人とSkypeで通話しながらメールで来るはずのイベント当落結果を待っている。
毎年開催されている『ヒートブレイド』のイベントだ。
「んで?憧れの春さんに会えてどうだったわけ?サインでももらった?」
「それがさ…」
_____今回はチケットをご用意することができませんでした
あー…また今年も外れた。
「逃げたってなんで?!え、あり得ない、うっわぁ」
やけにうるさい友人の声なんて聞こえないほど落胆した。
ヒートブレイドは原作からのファンだったし清水時春が主人公だし、当然イベントにも参加したいわけで…。
だが世の中のヒトブレファンも同じ事を思っているようで
アニメの二期の制作が発表されてからますますあがる倍率に頭をかかえているのは多分俺だけではない。
「俺も子供の面倒みてくれる人がいれば東京いけるんだけどな」
さり気なく新米パパアピールをする友人は一昨年のはじめに二人の男の子の父親になった。
27歳……もうそんな年なのかな。
幼稚園に迎えに行ってくるわ、また連絡するからと
友人が慌てて通話を終了させてしまったので
なんだかもの寂しく感傷的な気分になる。
彼女もいない、仕事も別に充実してるわけでもない、何の夢もない27歳。
まずいまずい。このままでは田舎の両親に親孝行する事すら出来ない。
残業漬けの日々からとりあえず一刻も早く抜け出さなくては
そう思ったのに、翌日、仕事を終えて軽い気持ちで帰って行く同僚をよそに
俺は目の前の大量の書類を前に
うんざりしていた。
いやいやいやいや、今日も残業のせいで遅くなりそうだ。
「あーーーーーー」
すっかり人気のなくなったオフィスで背伸びをする。
同じ姿勢で作業をしていたから
腰や肩が痛い。
首をまわすとポキポキと音が鳴った。
やっと仕事が終わった頃には
もうほとんどの店が閉店している時間で
それでも何だかお酒と上手い料理が食べたいと思い
気がつくと、あの交差点の近くを歩いていた。
そういえば、ここで___
何となく一回行ってみたかった。
店とかほとんど知らないし。
いや、嘘、
ほんの少し、少しだけ期待していた。
また、清水時春に会えるかもしれないと。
気がつくとこの間連れてこられたあの店の前にきていた。
まだやっている。
ガラガラと引き戸をあけると
上品そうな店員さんが席へ案内してくれた。
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