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第2話 第一章 思春期の少年は何を想う?
「 ......おかしいんじゃない? 」
「え?」
唐突に付き合っている女の子から言われ、俺は返答に困る。
その日、高校受験の為に運動部最後の部活を終え、下校する俺を待っていたのは児島さつきだった。
彼女とは同じクラスで、去年の冬に告白されて以来、周りのヤツらにひやかされながら付き合いが始まった。
今日は部活が終わったら一緒に帰る約束をしていて、校門で待ち合わせ。
「ねえ、千早(ちはや)くん、帰りにうちへ来ない?今夜は親の帰りが遅いから、一緒に居てほしいの。」
さつきが、校門を出るなり俺の顔を覗きながら言う。
「・・・・・あ~、いいけど。何時ごろまでかなあ。今夜は桂(かつら)の家で勉強する予定になってて・・・・9時から行くんだ。」
俺は特に気にせず、本当に約束していた事だからさつきに聞いてみた。
一瞬、さつきの顔がムッとした様だったけど、俺がさつきの手を取って繋いだら、ニッコリ微笑んでくれて「なら、7時まででいい。」という。
俺は「うん。」と頷くと、手を繋いでそのまま彼女の家へと歩いて行った。
告白されてからそろそろ1年が経つけど、俺は女の子と付き合ったのが初めてで、雑誌に載っているようなベタな関係はよくわからないまま。
学校で毎日顔を合わせるし、たまにこうして一緒に帰るしで、日曜日は店をやっている親の手伝いとかで会えない事もあるけれど、仲良くしているつもりだった。
親が不在のさつきの家に上がり込んで、俺たちが何をすべきなのか、そんな事は耳から入る情報でも十分理解が出来る。
それでも、俺自身はそんなことにはあまり興味が持てなくて、周りの友達の話で、キスをしたとか胸を触ったとか、そんな事を聞くばかり。
さつきの部屋は、女の子らしいピンクと白で統一されたベッドと机周りの雑貨が可愛くて、居心地はよかった。
「コレ可愛いね。どこで見つけてくるの?この辺の雑貨屋にはなさそうだし。」
俺が手にしたのは、机の上に置かれたオーナメント。
白い陶器で出来た筒状のもので、中が空洞になっているのか、小さな穴が空いていたが、上には冠を付けた鳥が羽を広げていた。
「そういうの、男の子でも可愛いとか思うんだね。・・・それ、姉からもらった物で、フランスのナントカってブランドのなんだって。お姉ちゃんが男に貰ったんだけど、いらないって言って、私にくれたんだよ。ヒドクない?!」
さつきは、テーブルにジュースとお菓子を置きながら言うと笑った。
「・・・・そうなんだ、その人可哀そうだよな。・・・でも、可愛いよ、コレ。」
俺がもう一度手に取って眺めていると、「ねえ、こっちで話そうよ。」
そう言って、ベッドに腰掛けるさつき。
- あ・・・・・
なんとなく感じるピンクのオーラ。
そんな色が、さつきの周りに見えてきた。
俺は白いオーナメントを置くと、さつきの横に腰を降ろす。
頭の中では、聞きかじった情報を引っ張りだしているが...................
どうしてだろう、キスをしたいとか、胸を触ってみたいだとか、そういう気持ちが溢れてこない。
「・・・千早くん?!」
座ったまま動かない俺に、さつきが顔を寄せてくる。
彼女の熱が俺の唇に伝わるが、心は何処かへ飛んで行ったみたいで.........。
手を繋いで帰る時には、なんとなく感じる愛おしさみたいなものが、直接唇を重ねると感じられない。
押し倒されて、頭の中でもう一人の自分がささやく。
《やばいんじゃないの?普通は男が押し倒すだろ!!これじゃあ面目丸潰れ。》
そんな事を考えているうちに、さつきの息遣いが荒くなってきた。
俺の口にじゅ~っと吸いつきながら、シャツのボタンを外しかける。
俺は、トモダチ情報からチョイスして、さつきの胸を掴んだ。
「ヤ、・・・」
「え?イヤなの?」
俺はすぐさま手を引っ込める。
拒否されたんなら止めた方がいい。そう思った俺は、躰を離すとベッドから起き上がった。
「え?!・・・・・なに?」
目を丸くしたさつきが、俺に向かって言った。
「え?・・・・何って、・・・ごめん。嫌だったんだろ?」
シャツのボタンを留め乍ら言う俺に、さつきが一言。
「――おかしいんじゃない?」
そう言うと、俺を残して部屋から出て行った。
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