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第3話
ピンクのインテリアに囲まれて、俺は途方に暮れる。
「さつきちゃーん。」
ドアを開けると廊下の先に向かって彼女の名を呼ぶが、全く返事が無い。
下に降りて行ったんだろうか・・・。
《どうすんだよ。帰っていいのか?!・・・・》
ポツンとたたずんで、しばらく待つが物音すらしなくて・・・・。
《仕方ないな・・・》
俺はカバンを脇に抱えると、下へ降りて玄関へと向かった。
リビングの方へ顔を向けると、
「お邪魔しました~。」
そう言って大きな声で挨拶をして、靴を履くと外へ出た。
家の前でもう一度玄関を振り返ってみるが、やはりさつきは出て来ない。
この状況を自分で整理しきれなくて、俺のどこが間違っていたんだろうと思った。
嫌だという事を女の子にするわけにはいかないし、かといってどうすればさつきが喜ぶのかも分からない。
こんな時は、桂(かつら)に電話だ。
脇に抱えたカバンを漁ると、この前親に買ってもらった携帯電話を探す。
今はまだ、ほかに持っている友達は少ない。
そんな中、桂は塾に通っているから親が持たせてくれたらしくて。
俺はというと、アネキが買ってもらったついでに、ちゃっかり便乗してゲットした。
カバンの奥から取り出すと、早速、桂にかける。
「・・・・あ、俺。分かる?」
ちょっと緊張してしゃべる俺に
「名前、表示されてっから。前にも言ったな。・・・千早、早いじゃん。9時に待ち合わせだったろ?」
冷静な桂の声がして、少しだけ緊張が解けた。
俺は、さっきの事を桂に話しながら歩いた。
もちろん、人には聞かれたくないから小さな声で話す。
「千早、良かったら今からでも家へ来いよ。オレのトコ誰もいないしさ。」
そう言われ、「うん、行く。」と答えた。
桂秀治(かつら しゅうじ)とは小学校は別だが、桂の両親が仕事で外国へ行き、今は俺の家の近所で祖父母と暮らしていた。
頭の出来は違っても結構気が合うし、物知りでなんでも聞くと答えてくれるから、ついつい頼りにしてしまうんだ。
俺は小走りで帰ると、桂の家の庭先へと回った。
縁側で本を読んでいた桂が、こちらを見ると手で合図をするが、上がり込んだ俺の顔を見てニヤッと笑う。
「・・・残念だったな。童貞卒業するチャンスだったのに・・・・。」
「は?・・・・・あ~・・・・まあな。」
畳の上の座布団に寝転んで、桂の顔を見ながら答えたが、本当は残念という気持ちはなくて........。
ただ、さつきに悪い事をしてしまったという気持ちの方が強かった。
「なぁ、桂って童貞きった?相手いたっけ?」
何気なく聞いてみたが、俺は結構ドキドキしていた。
桂の事は何でも知っている。と思っているが、女の子の話は聞いた事が無い。
実際、俺たちはそういう事には疎くて、俺はもっぱらファッションに興味があって、早く大人になりたいと思っていたし、自分で稼げるようになったら好きな服をいっぱい買いたい。将来の夢はブティックを経営する事だった。
桂は、・・・・・・・・・
桂は頭もいいし、やっぱり先生とかかなー。
ぼんやりと思いうかべながら、桂の持ってきたカステラを手に取ると返事を待つ。
なのに、口を開けてかぶりつく俺と目が合うと、返事はせずにメガネの奥で不敵な笑みを浮かべるだけ。
「・・・何?!」
気持ち悪くて聞いてみたが、口元をあげてニヤリとするだけで。
「なんだよツ!!秘密かよっ!!」
俺はちょっと腹がたって、桂の足首を掴むと引っ張った。
ドスンツと鈍い音が畳に響いて尻もちをつくと、俺の横で転がったまま
「痛ぇ~・・・・」
と言いながら、睨んでくる。
「・・・・・・・・・」
俺は、その目を見たら、どういう訳か言葉に詰まった。
「・・・・・・・・・」
桂も、俺の目を見たままじっと動かない。
「キスしたんだ?!」
突然桂に聞かれて、目を丸くした俺は首だけでうん、と答えた。
「ふうん・・・・・・」
桂は、俺の口に指を伸ばすと、人差し指でそっとつつく。
「・・・・?」
固まる俺に、「キスしたのに勃たなかったんだ?!」
指でつつきながら言われて、ちょっとドキッとした。
「ヤバイね、千早。・・・・・ホモじゃね?!」
桂の言葉に、目を丸くした俺。
驚きと同時に胸の高鳴りを感じると、顔が焼ける様に熱くなり、桂の指を振り払う。
「ちげぇよ!!」と言って俺は目を逸らしたまま立ち上がった。
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