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第4話

 俺が桂の指を振り払った事で、部屋の中の空気が張り詰めてしまった。 「なんだよ、冗談だって!・・・」 畳に座り直すと、桂は俺の顔を見て笑って言った。 それでも、少し引きつった口元で半分本気だったことが分かると、やっぱり腹が立つ。 「ホモっていう言い方は悪かった。別にバカにした訳じゃ無くてさ・・・・」 「そういうの、テレビの中じゃバカにしたみたく言ってるじゃん。気持ちワル~って感じで。」 桂が言うように、俺をバカにした訳じゃ無いのは分かる。でも、いい気はしない。 俺はさつきと付き合ってるつもりだし、今まで男を好きになったことは一度もなかった。 もちろん桂の事は好きだ。でも、それは親友という意味でだ。 「オレは、別にホモだっていいと思ってるよ。だって女の子に興味を持てないのは仕方がないし、もしも大事にしたいと思う相手が男だったとしたら、それはそれで仕方がない。」 桂のこういう言い方は、いかにも大人ぶってるというか・・・・・ 懐の大きいヤツだって思われたいんだろう。 本当に目の前にホモがいたら言えないさ。きっとビビる。 「もういいよ。そんな事より、さつきとはどうすればいいんだよ。月曜日、顔合わせづらいじゃん。」 「ああ、・・・ソレな!」 せっかくのファーストキスも、俺が奪われたみたいになって、ちょっと恥ずかしい。 こんな事なら友達に詳しく聞いておくんだった。 「なあ、桂・・・・・・・、マジでキスってどうやんの?なんか雑誌とかないのかよ。」 あんな風にじゅ~って吸われても、口がもげそうになるだけでちっとも気持ちよくなかったし、桂なら経験が無くても本から得た知識があるだろうと思って聞いた。 「そうだなぁ・・・」 少し首をひねると、手に持ったカステラを皿に戻す。 テーブルの上に腰掛けた俺に近づくと、人差し指を向けた。 「・・・・あ?」 意味が分からず顔を前に突きだすと、桂は俺の唇を指でなぞりだす。 「なに?」 されるがままの俺は、桂の指が唇に這うのを止めなかった。 が、そのうち口の中にも入ってきて、俺の舌ベロが桂の指に当たるとカステラの甘みが広がった。 「甘い?」 桂が俺に聞く。 「ん。」 俺はおずおずと、自分の指を舐めるみたいに味わった。 「それだよ。そうやって舐めたらいいんだ。さつきちゃんの舌ベロを。」 「へ?」 なんとなく変な感じで、キスはしていないのになんか・・・・・・・・。 「千早も気持ちいい?」 桂に聞かれて、なんとなく実感が湧く。 唇そのものはただの皮膚って感じで、舌ベロを絡めるとなんとなくじわっとキた。 俺の口の中を桂の指が執拗にかき回してくる。 舌を押したり頬の裏側をなぞったり・・・・・・。 ずっと口を開けていたらヨダレが溢れて、顎に垂れてしまった。 「あ、・・・」と、口を閉じようとした俺に、桂のもう片方の親指が入ってくる。 両方の手の指を突っ込まれて、俺は焦る。 桂の顔を見たら・・・・・・ 目の焦点がおかしくて、虚ろな眼差しが俺の口元だけに向けられている。 薄暗くなった部屋の中で、桂の眼差しを目で追うと、俺の方も変な感じになってきた。 止めればいいのに桂の指を受け入れると、それに舌を絡めてはまだしゃぶっている。 その時、俺の頭の中からはさつきの事がすっかりと消え去っていた。

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