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第5話
どうしてこんなことに・・・・・?
桂の指を舐めていたら、俺の中で何かが外れたみたいで。
多分、今の俺は酷い顔になっている。
自分以外の人間の指を舐めるなんて考えた事もなかったけど、おしゃぶりを与えられた赤ちゃんみたいに必死になって吸い付いていた。
ふぁ、...........ぁ.............ぐっ、......
意識が飛びそうなほど吸い付くと、ゴクリ、と喉を鳴らした桂は俺の顔に近づき鼻先を舐めてきた。
それから指を離すと、俺の口にキスをする。
唇に触れると、すぐに俺の舌をすくい取る様に絡めてくる。
それが自然で、気持ち悪さは感じなかった。
- - - 初めての経験。
なんとも濃厚な【くちづけ】ってやつを交わした俺たちは、湯気が立ちそうな程荒々しい息を吐いて抱き合った。
でも、桂が言った。
「これで、チンコが勃ったらホモだと思う。」と......。
「・・・はっ、・・・・そんな・・・」
俺は桂の身体を押しやると、持ってきたカバンを胸に抱えて部屋を飛び出す。
「千早っ!!」
俺の背中に、桂の焦った声が響く。
でも、後ろは振り返らなかった。
- - -
月曜日、いつもの時間をずらして登校した俺は、さつきの姿を見つけると「ちょっと来て。」と言って裏庭へ連れ出した。
「・・・何?」
不機嫌な顔で俺を見る。
「ごめん、俺さつきとは付き合えない。っていうか、誰とも付き合えないと思う。ごめんな。」
そう言うと、さつきを残して教室に戻った。
俺が偉そうに言える立場じゃないけど、ひとつだけ確信したことがある。
あの時、俺の身体は確実に反応していた。
相手が桂だから・・・・・?
それは分からない。
でも、桂が言うように、俺は「ホモ」なんだと思った。
桂は登校してくると、俺の顔を覗きに来たが、言葉を交わす事はなかった。
視線を交わすだけで、なんと話しかければいいのか分からない。
俺の中にある戸惑いが、俺たちの間に壁を作る。
結局、俺と桂は卒業まで言葉を交わさないまま、時間だけが過ぎて行った。
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