6 / 167
第6話
- - - 港南工業高校。
俺が進学した高校は、大きな川を越えた先にあって、駅からバスを乗り換える時間がもったいない俺は、ほとんど友人と歩いて通った。
途中の土手に、きれいな彼岸花の群生場所があって、俺はこの道を歩くのが好きだった。
彼岸花は、墓場に咲く花のイメージがあって、好きではないと忌み嫌う友人もいる。
葉もなく、まっすぐ伸びた茎の先には、炎をたぎらせた様に深紅の花が咲き誇る。
線香花火を逆さにしたようにも思えて俺は好きだったが、あえて人に言う必要もないから黙っていた。
「夏休みが終わると一ヶ月って早いよな~。もうすぐ中間試験だよ。勉強してる?」
同級生の柴田に聞かれて「まさか。」と一言。
「だよな~、小金井が勉強してる姿なんて想像できないや。」
「ひでぇな、俺だって一夜漬けぐらいはするっての!留年するとかカッコ悪いじゃん。」
「まぁな!いくら男子校だって、留年は後輩の手前カッコ悪い。ビリでもしがみ付いて進級しなきゃ。」
ハハハハ・・・・
学校までの道をこうやってしゃべりながら歩くのも、2年目で慣れた。
結局俺は、女子に色々気を使うのが嫌で男子校に進学した。
桂との事は、俺の記憶の片隅に追いやって、目と鼻の先に住んでいるアイツの顔を見る事もない。
桂は、私学の進学校へ進んだ。
大学まである学校で、かなり勉強には力を入れているらしい。
完全に、俺とは住む世界が違う。
たまに、同じ中学だったヤツらと出会うと、必ず桂の話が出た。
俺以外にも、桂に勉強をみてもらった生徒は多くて、試験が近づくと何故か桂の事が話題に上るんだ。
「なんか、桂の高校って一年先の勉強をやってるらしいよ。この間コンビニでたまたま出会ってさぁ、そう言ってた。」
同じ中学だった長谷川が俺の席の前で言う。
俺は「へぇ。」と言っただけで........。
「そういえば、千早の事聞かれたっけ。元気にしてるかって・・・・。なに、お前ら家近いのに、全く顔合わせてないんだって?」
長谷川に言われて、俺は少しドキッとする。
桂が俺の事を気にしてたって?
そんなのアイツのポーズだろ。
いつも余裕のある素振りで・・・・・。
「そういえば、桂の彼女って藤ヶ谷女学院の一年生だってさ。いいよな~~~~!頭はいいし、そこそこカッコよくなってたしさ!くっそ~~~っ・・・・悔しい!!」
ひとり叫びまくる長谷川をよそに、俺の心臓はぎゅんって掴まれた様に痛んだ。
- 何?・・・・・この痛み・・・・・。
「あ、そうそう、試験勉強教えてって頼んどいたから。来週の映画の予定はそっくりそのまま勉強に変更な!・・・桂の家に3時に集合だから。」
「・・・・・・・へ?」
長谷川の顔を見直して、文句を言おうとしたらチャイムが鳴った。
慌てて自分の教室へと戻っていく姿を見ながら、しばし呆然とする俺。
・・・・・なんなの?今更、桂に合うとか・・・・・・・・
俺の心臓は、焦りを伴いながら痛み出した。
ともだちにシェアしよう!