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第27話

 天野さんの、長くて節のない綺麗な指が、モデルさんの唇に紅を差すのを見ていた。 半開きの口元が艶めかしくて、見ているだけで吸い込まれそうになる。 こういうのは何というのだろう。 相手が女とか、そういうことじゃなくて、ただただ艶めかしいんだ。 その唇に触れてみたいと思うのは、別におかしいことじゃないよな・・・・。 しばらくすると、天野さんが俺の方を振り向いて笑ってくれた。 「ちょっと待ってて、すぐ終わるから。」 そういうと、最後の仕上げなのか鏡に映ったモデルをもう一度見た。 「はい、じゃあヘアアレンジは加藤さん、お願いします。」 メイク道具をざっと仕舞うと、俺の座る場所までやってくる。 「あれから熱は出なかったか?今日はどうした?」 隣に腰を掛けると聞いてくれて、なんだかぼーっとしていた俺はハッと我にかえる。 「あの、・・・有難うございました。熱はもう大丈夫です。・・・あっ!お礼の品、忘れちゃった!!」 母親に花束でも渡しておいてと言っといて、自分が忘れるとか・・・。 「はは、いいって、お礼とか・・・・。なんかあったのかな、学校から直接来たんだろ?!」 俺がカバンを持ったままなので聞いてくれたが、ここで話をするのはちょっとマズイ。 「えっと、ちょっと疑問っていうか・・・聞きたい事あったんだけど、ここでは・・・。」 「あぁ、・・・・だったら、この上の部屋の方で話そうかな。オレの借りてる部屋があるからさ。」 そう言って、俺のカバンを手に持つと歩き出した。 「え?ああ、すいません・・・・。」 焦って天野さんの後を付いて行くが、部屋を借りているっていうのが気になった。 先日の家は、自分の家じゃないのかな・・・。 「後はよろしくね。何かあったら上にいるから、呼んでくれ。」 スタッフの人にそう言って、一旦店から出るとビルのエレベーターに乗って5階まで上がった。 今まで気づかなかったけど、このビルは5階から上がマンションみたいになっていて、下の店舗の雰囲気とは違っていた。 俺は後を付いて行くだけで、言葉は発しないまま。 天野さんも、歩きながら話を聞くわけにもいかず、黙って俺を案内した。 ドアノブにカギを差し込むと、ゆっくりドアを開いて俺を先に入れてくれるみたいに立ったままだった。 「お邪魔します。」 そういうと中へと入ったが、少しだけ緊張する。 俺は、興奮に任せてここまで来てしまった。 天野さんに聞けば疑問が解決すると思ったんだ。 「そこ、座ってて。」と言ってソファーを指差したので、カバンを床に置くと腰を掛けた。 赤い革張りのゆったりとしたソファー。 外国製なのかな、座面が広くて横になったらベッドになりそうだ。 「すごく座り心地いいですね、コレ。どこのですか?」 「そのソファーはイタリア製。本当は黒の皮革が欲しかったんだけどね、こっちのがいいんだってさ。」 天野さんは、俺にお茶を入れてくれて、サイドテーブルに置くと言った。 「ああ、黒もいいですけど、俺もこの赤の方がオシャレかなって思います。天野さんのイメージに合ってるし・・・。」 なんて、ちょっと大人ぶって言ってみるが、本当の良さなんて分からないんだ。 俺の場合は、感覚だけでいいとか悪いとか言うだけ。物の良し悪しは、いまいちわからないんだけど・・・。 「気にいってくれたんなら嬉しいよ。・・・で、話って?」 ゆっくりと隣に腰を降ろすと聞いてくる。 「えっと、・・・」 俺は少し間をあけて、続きを話した。

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