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第26話

 ヤバイヤバイヤバイ・・・・・・・。 電車に飛び乗って、目の前の人にぶつかりそうになるが、俺の頭の中は興奮状態で。 空いた席に身体を沈めるが、勝手に足がバタついて、向かいに座った人にジロリと見られた。 なんとか堪えて、自分の降りる駅に着くとまた走り出す。 本当にバカみたいだって自分でも思うけど、叫びたい気持ちを堪えているから仕方がない。 天野さんに話そうか、どうしようか・・・・・。 このまま、天野さんの美容室に行けば会えるのかな。 でも、会ってどうする? さっき見た事を話したって「やっぱりな。」と言われるだけ。 俺は、このまま交差点を突っ切って店に行こうか迷っていた。 とても一人では気持ちの整理がつかなくて.........。 天野さんに聞いてみたい。 そういう人たちが、どんな風に過ごしているのか。 相手を見つけられるのか、とか、どこで分かるのか、とか・・・・・・・。 取り敢えず、俺は店の前まで行くと外から覗いて見る。 この間いたスタッフが、受付の所で立っていたが、俺には気づいていなくて奥のお客さんを見ているようだった。 店の中は広くて、天野さんがいるのかいないのかさえ分からない。 だからって中へ入る勇気はなくて・・・・。 しばらく歩道のフェンスに腰を掛けて、天野さんの顔が見えるのを待った。 そこまでして何を必死になっているんだと、もう一人の自分が笑うが、気持ちの奥で興奮は抑えられないまま。 男同士が抱き合っているのを見て興奮した。 昔、さつきに押し倒されて、キスをされた時は何も感じなかったのに・・・・。 むしろ違和感の方が強くて、こんなにドキドキする事もなかった。 「おかしいんじゃないの?!」と言われた言葉だけが頭の片隅に残っているだけだ。 - 天野さん、今日は店に出ていないのかな・・・。 そもそも、あの人はオーナーだし、この間もうちの高校の近くをうろついていて、店にいるって方が少ないんじゃないのか?! そんなことを考えながら、店の中をじっと見る俺は、かなりヤバイ奴。 ふと、店のドアが開くと、中からスタッフの女性が出てきた。 まっすぐ俺の方に向かってくるから少し身構えたが、彼女は「中で待てば?」と、笑って言った。 「え?!・・・・俺?」 「オーナーは、奥のスタジオでメイク中です。あなたの姿は、中からバッチリ見えてますよ。知らない人が見たら不審者です。」 「ええ?・・・すみません。ちょっと、入りづらくて・・・。」 「ふふふ、、、どうぞ、中で待っててください。」 俺は頭を下げたまま、スタッフの人について行った。 ドアを開けて入ると、一斉に視線を浴びて恥ずかしかった。元いた場所に目をやると、ガラス張りの店内からは丸見えで。 外からは中が見えにくかったのに・・・・・。 案内された奥のスタジオでは、天野さんが助手の人に何か指示をしながらメイクを施していた。 先日の、人をおちょくった子供っぽい顔とは大違いで、真剣な眼差しは男の俺が見てもカッコイイ。 正直、見惚れてしまう。 目鼻立ちのハッキリした顔は、ちょっと男っぽくもあって羨ましかった。 - この顔で、男とも付き合うんだ・・・・・。 そう思ったら、また学校で見た光景が浮かんでしまい赤面した。

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