35 / 167

第35話

 狭いカラオケルームの中で、20曲ぐらいは歌っただろうか。 少し疲れた俺は、ちょっとトイレ。と言って立ち上がる。 「いってら~。」 柴田はマイクを持ったまま、俺の背中に声を投げた。 - このまま帰りたいな・・・・ そろそろ話題も尽きたしな・・・・・ なんて思って歩いていたら、「小金井さん。」と声がかかり振り向いた。 カラオケルームで柴田と話していた筈の中島さんが、俺を追って出てきた様で・・・・・。 「あ、ごめん。ちょっと先に済ませてくるから・・・・」 「うん、ごめんなさい・・・。」 トイレに駆け込むと、胸を押さえた。 柴田の気持ちを知っている俺は、この後どうしようかと本気で心配になる。 俺なんかに告るより、柴田と仲良くしてくれたらいいのに・・・。 さっさと済ませて手を洗うと、俺は考えた。 用事があると言って抜けよう。 後は柴田が何とかするだろう。 もう一人の、桑田さんて娘も気をきかせてくれたらいいんだけどな。 ドアを開けて少し歩くと、通路の所で中島さんが俺を待っていた。 「どうも。」と言って横に並んで歩くけど、何を言われるかドキドキしてしまう。 「小金井さんは付き合ってる人いないって聞いたんですけど・・・。ホントですか?」 「・・・・ああ、柴田が言った?!・・・うん、今のところは。」 本当のことを言うしかなくて、中島さんが少し嬉しそうな表情になって焦る。 期待されても困るんだけど。 「それなら、私とお付き合いしてもらえませんか?あの、トモダチからでいいんで・・・。」 俺は、一瞬下を向いて考える。 - トモダチって言ったって、結局は付き合ってほしいって事だよな・・・。 「・・・今は、誰かと付き合いたいって思っていなくて、やりたい事とかあるし、多分俺と付き合ってもつまらないよ。」 精一杯のお断りの言葉を選んだつもり。 でも、ちゃんと伝わっていなかったのか、中島さんは「トモダチでいいんです。」と言った。 「・・・・。」 そう言われると、ホントに困る。 中学の頃なら良かったけど、今の俺はもう自分の事が分かり始めてきたんだ。 柴田や長谷川とは違う。 俺は女の子に全く反応しない。 そういう気持ちにもなれないんだ・・・・・。 「中島さん、・・・・俺は女の子が苦手。・・・分かるかな?!」 「え?・・・」 「そういう事だからさ。・・・・柴田には内緒にしといて。」 「・・・・・そ、・・・・・・・はい、・・・。」 一人で部屋に戻った俺は、「ごめん、ちょっと電話入っちゃった。先帰るから・・・ここ置いとくな。」と言って財布から3千円を出すとテーブルに置いた。 「え?・・・あれ、杏ちゃんは?」 柴田が焦る。 「トイレじゃないか?合わなかったけどさ。・・・じゃあな!」 そのままドアを開けて部屋から出ると、カラオケボックスを後にする。 中島さんに言ってしまった・・・・・。 柴田には内緒って言ったけど、話してしまうかも・・・。 でも、それならそれで、俺も腹をくくれる。 もう後戻りはしない。自分の性癖を背負って生きてやる・・・・・。

ともだちにシェアしよう!