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第34話
柴田のように、ひと目見ただけで女の子を好きになったことが無い俺には分からなかった。
ましてや、彼女が気になっている男をわざわざ同行させるなんて、いくら俺がニブくてもするわけないって・・・。
「俺は行かないよ。悪いけどあの娘に興味はないし、お前の恋路を邪魔したくもないしな。まあ、名前だけ貸してもいいや。当日行けなくなった事にすれば?」
我ながらいいアイデア。
柴田とあの娘も自然とデートが出来るって訳だ。
「じゃあ、オレもやめておく。そんなのミエミエだもんな。」
柴田が言うから、俺はちょっと悪いことをした気になった。
騙すみたいな事言っちゃって、柴田にもあの娘にも悪かったかな・・・。
「じゃあ、もう一人友達連れて来てもらって、4人で会おうぜ。そしたら気まずさも薄れるかも・・・。な?!」
そういうと、柴田の沈んだ顔が一気に満面の笑みを浮かべ華やぐ。
- はぁ・・・なんつーか、可愛いなコイツ。
人を好きになるってこういう事なのかな。
すぐに気持ちが顔に出ちゃう。
俺は、さつきと付き合っている時、どんな顔をしていたんだろうか・・・。
今の俺は天野さんと会う時に嬉しくてニヤけるけど、これは好きって事なんだろうか・・・・?
- - -
次の休み、俺は天野さんの所へは行かずに、柴田と約束した通り女の子2人を交えてのダブルデート。
とはいっても、カラオケに行ってフリータイムで歌ったりしゃべったりするだけで。
店の前で待ち合わせをしていると、向こうの方から二人連れの女の子がやってくる。
柴田はすぐに手を上げて合図を送る。
ハッとした顔つきで、その子たちが待ち合わせの相手だと知る俺。
「こんにちは。」
「・・・ちわ。」
軽く頭を下げる俺に、彼女が笑いながら「有難うございます。来てもらって・・・。」といった。
それから隣の柴田を見ると、ニコリと微笑む。
ちょっとだけ複雑な気持ちの俺は、「そういえば名前・・・」と言って、まだ紹介も済ませていない事に気づく。
「あ、こちらは中島 杏(アン)さん。あと、そっちは同級生の桑田 貴理(キリ)さん。」
紹介してくれたのは柴田で、すでに学祭の時に紹介されて知っているそうだった。
「小金井です、よろしく。」
俺は少々照れながら言った。
久しぶりの異性との交流で、ちょっと昔の中学生時代を思い出す。
4人で店内へ入ると、予約していたからすぐに部屋に案内された。
四角いテーブルを囲んで座るが、柴田が気を使って俺と中島さんを隣同士にした。
なんだか切ないな・・・・・。
でも、柴田の気持ちを察して、ここは任せるしかなくて・・・・。
座ってみれば、俺の向かいには桑田さんがいて、柴田はしっかり中島さんの向かいでニヤケていた。
-ああ、そういう事・・・・・!
お昼もかねて、メニューを片っ端から注文する俺たちに、彼女たち二人はクスクスと笑った。
待っている間に、早速柴田がマイクを取る。
何度も聞いた事のある曲を歌ってくれるから、「レパートリー少ないなぁ~」とヤジを飛ばすが、「うるせぇ!」と返された。
初めは少し照れもあってか、しゃべる機会が掴めなくて、中島さんが俺の方をチラチラと見る。
それに気づいた柴田が、わざと俺の事を話題にしようとして話始めた。
普通の高校生の、しかも男子校なんてなんの華やかさもない。
ただ毎日、むさくるしい男がウロウロしているだけで・・・。
そんなことを話すうちに、桑田さんという娘は中島さんと違う高校なのが分かった。
同級生というのは、中学が一緒だっただけだ。
桑田さんは、有名な〔藤ヶ谷女学院〕の1年生らしい。
・・・藤ヶ谷・・・
聞き覚えのある学校名。
・・・そうだ、桂の彼女もそこの生徒だ。
「へぇ、女子高か・・・。」
「すごく頭が良くって、自慢の友達なんですよ。」
俺の問いかけに、中島さんが笑いながら言った。
友人の事を褒められるって、きっと素直な性格なのかな、と思う。
色素の薄い瞳で微笑まれると、確かに綺麗だ。普通は、こんな娘に告白とかされたら喜んで付き合っちゃうんだろうな。
なのに、俺は先へ進む気にはなれない。
「アンちゃんは、ケーキとか作るのがうまいよねぇ。よく食べさせてもらうんです。」
「へぇ・・・すごいね。」
桑田さんが中島さんの事を持ち上げているが、俺は返事に困ってしまう。
「小金井はケーキ好きだよな。」
柴田がすかさずフォローしてくれて、「ああ、すごい好き。アネキと取り合いになるもん。」と、俺も続けた。
なんだろう、この探り探りしながらの会話って、結構疲れるな・・・。
「あ、じゃあ次俺が歌いま~す。」
マイクを掴むと、立ち上がって自分の入れた曲を歌い出した。
モニターを見ながら気持ちを静める。
この後って、どうすりゃいいんだっけ・・・・。
そっと柴田の顔を覗き見るが、中島さんに話しかけられて舞い上がっている。
もうデレデレ・・・・・
そんな光景を見ては、これが普通の男の反応だろうな、と思った。
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