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第33話
「ともだち?」
天野さんが俺に聞く。
「・・・うん、中学の同級生。近所に住んでるから・・・。」
「へぇ、こっちをじっと見てるけど、いいのか?」
「え?」
天野さんに言われて、思わず桂の歩いた方向に顔をやってしまった。
すると、アイツは通りの向こうで、信号待ちをする俺たちを見ていた。
- なんだよ・・・・・・
そのうち信号が青に変わって、車をゆっくり発進させると、桂も踵を返して歩き出す。
この道はまるで大きな川の様で、対岸の桂と俺は違う方向へ歩き、二人の間には架かる橋なんかないような気がした。
車から降りると、店の中から出てきた母親が天野さんの車に近づいてきた。
手には鉢植えの花、〈ポインセチア〉をかかえていて、窓を開けた天野さんが「おはようございます。昨夜は千早くんを借りてしまって・・・。」という。
「いいえ~、こちらこそ、この間もお世話になってすみませんでした。コレ、良かったらお店に飾ってくださいな。」
「あ、すいません。見事なポインセチアですね!これからの季節にぴったりだ。有難うございます、遠慮なく・・・。」
そう言って受け取ると、俺の座っていた助手席のシートの上に置いた。
「じゃあ、また。・・・失礼します。」
「はい。どうも・・・」「さよなら。」
口々に挨拶を交わしながら店の前で車を見送る俺に、母親の視線が痛い。
俺の顔をじっと見るから恥ずかしくなるけど、「俺、寝るから、昼まで起こさないでよ!」と、素知らぬ顔で階段を駆け上がって行った。
部屋へ入るとベッドの上にごろりと横たわる。
- はぁ・・・・・・
大きくため息をついたけど、それはまだ興奮が冷めていないせいで。
決して桂と気まずい思いをしたせいではなかった・・・・。
・・・・・その筈だったのに・・・・・。
- - -
あの日から、俺は何度か天野さんの自宅へと行き、同じように身体を開放するだけだった。
天野さんの言葉通り、痛い思いはしていなくて、触りっこの延長で指を増やされただけ。
ただ気持ちよくなる方法を教えてくれるだけで、自分のモノを挿入することはなかった。
何処かで、俺は期待していたのかもしれない。
天野さんになら、俺の初めてを捧げてもいいって・・・・・。
・・・・なんて、俺は処女を捧げる女か!
授業中、バカみたいな事を思い巡らせていると、休み時間になって柴田が俺の前に座った。
「なあなあ、オレ学祭に行って来たんだよ。」
「は?」
「ほら、この間小金井を誘った・・・あの娘の学校だよ。」
「ああ、・・・。」
うっすらと思い出した。
確か、柴田が行きたがってて、俺が招待状失くしたのを怒ってた・・・・。
本当に一人で行ったんだ・・・?!
「居たよ、この前の娘。オレの事も覚えてて、お前と来たのかって辺りを見回してたから申し訳なかったわ~。」
肘をついて机の上にうな垂れると、俺の顔をジロリと見る。
「小金井って、女キライなの?・・・そんでも、中学の時は付き合ってた女いたって、長谷川が。」
「・・・人の心配するより、自分の心配しろよ。柴田、あの娘が気に入ったんだろ?告ればいいじゃん。」
俺は、あの娘の顔も忘れてしまった。
どのみち付き合うとか無理だし・・・。
「ならさ、協力してよ!今度の休みに3人で会おうぜ。」
「・・・は?!」
唐突な申し出に、俺はただ呆れるしかない。
興味ないって言ってるし、あの娘と俺を合わせてどうするんだよ・・・・・!
「柴田、お前ってお人よし?・・・もしさ、俺があの娘といい感じになっちゃったらどうすんの?お前の出る幕ないじゃん。」
俺には柴田の気持ちが分からなかった。
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