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第66話
今日は店の中が静かで、年末が忙しかったからかと、一人で納得しながら辺りを見ていた。
「年が明けてから千早くんの顔見ないし、どうしているのかと思ってたのよ。元気そうでよかった。」
「・・・まぁ、俺は元気ですよ。天野さんは?今日はいないんですね?!」
エリコさんに聞いてみたが、外で待つ桂の方にもチラリと目をやった。
「オーナーは買い物して来るって、さっき出掛けていった所。せっかく千早くんが来たっていうのにネ。」
「そうなんですか・・・」
- 俺が来るって思って、顔見ない様にしたのかな。
そう思ったら気が重くなった。俺、避けられてるんだな・・・・。
「じゃあ、コレおいて行きます。ありがとうございました。」
「はい、ご苦労様。また来てね!」
「・・・はい。」
ドアを開けると外で待つ桂の方へと近寄って行った俺に声がかかる。
「千早くんッ!!」
その声は、聴きなれた天野さんのもの。
桂を目の前に、声のする方へ振り返れば、天野さんは俺に抱きついてきた。
もちろんいやらしさはなくて、ふざけてしがみ付く感じではあるけれど、目の前の桂は思い切り眉間にシワを寄せている。
「ははっ・・・ちょっと、こんな所でふざけないでくださいよ。」
天野さんの腕を剥しながら言うと、「おッ!!同級生?!」と、桂の顔を見て言った。
「はい。そうです・・・。」
自分では普通に答えたつもり。
「へぇ、・・・・あれ、前に顔見たなぁ。車で送っていく時か・・・」
あの時の事を天野さんは覚えていたようで、桂に笑顔を向けるが、桂は無表情のままだった。
- ヤベ・・・・・なんとなく気まずい。
「じゃあ、俺たち勉強しに行くんで。」と言って、なんとかこの場を離れようとする。
「ああ、そうか3年生になるんだもんな。ま、勉強に飽きたら遊びにおいで。」
「はい。・・・あ、いいえ。遊んでる時間は俺には無くて、ギリギリですからね。」
それだけ言うと、桂に目くばせして促す様に歩き出した。
俺の横で、まだ無言の桂と2・3歩進んだだろうか、「桂クン。千早と仲良くね!」と、後ろから声がかかる。
焦った俺が振り向くと、天野さんはニコリと笑って手をひらひらさせた。
と、その時、隣にいる桂が俺の手を取ると、しっかり繋いで引っ張る様にズンズンと歩き出した。
「・・・お、・・い。・・・ちょっ・・・」
しどろもどろになりながら、俺は桂に引きずられる。
「ひゅう~~~っ!!」
背中に天野さんの声がかかるけど、もう振り向けない。
そのまま桂とまっすぐ歩いて行った。
- どうして桂の名前を知っていたんだ?
俺は、トモダチとしか話していなかったはず・・・。
そう思ったが、あの日、寝ている天野さんの横で、電話に出た俺が話すのを聞いていたのを思い出した。
電話越しだけど、桂の事を好きだと言った俺。
そこを聞かれていたのかな・・・・。
信号のところまで来ると、さすがに手を離した桂がこちらを向く。
「・・・・あのオーナー、どうしてこのクソ寒いのにサンダル履いてんだ?まあ、サンダルつっても高級なヤツだけどさ。頭おかしいんじゃないのか?」
「・・・」
ちょっと吹き出しそうになった俺は、口元を押さえながらにやける。
天野さんのいでたちは可笑しくて・・・。
最初に目にした俺も、今の桂と全く同じことを思ったものだ。
「まあ、あれは天野さんのトレードマークなんだろう。俺も聞いた事ないからわかんないけどさ。・・・この時期はブーツだよな。」
そう言いながら笑う俺に、桂はまた眉間にシワを寄せると「嫌いだな、ああいうチャラい感じの大人は。」と言った。
確かに、見た目は非常にチャラそう。
俺だって深く知るまでは、ただのチャラい男だと思っていたんだ。けど、今は天野さんを尊敬している。
「そんな事言うなよ、よく知りもしないでさ。あの人はスゲぇよ、立派な大人の男だ。」
特に庇うつもりはなかったけど、桂にバカにされるのはちょっとムカついた。
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