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第73話
「ねえ、アタシも混ぜてくれるのかしら?」
「ぇえ?・・・・い、いや・・・・冗談、ですから!!か、帰ります!!」
そういうと、男は俺の横から飛び出して行く。
急いで仲間のテーブルに戻ったかと思えば、その連中を引き連れて店を出て行った。
「あの、・・・・・どうも有難うございます。」
「アイツら、アンジーって店に出入りしている連中だから、後でオーナーに言っとくわ。アタシの可愛いボーヤにちょっかいかけんなって!」
「え・・・?」
俺がキョトンとした顔で、その人を見上げていると、隣で黙って聞いていた天野さんが笑い出した。
くくくっ・・・・・
「ちょっと、先に紹介してよね!謙チャン。」
笑っている天野さんを肘でつつきながら言うけど、俺は生まれて初めて生のオカマを見てビックリしていた。
俺の中の「オカマ」は、テレビの中の人だったから・・・。
「ゴメン、ビックリするよな。こんなゴツイのが来たら、さ。・・・この人はうちの店の裏通りでゲイバーをやってる人。」
「どうも~。立花 はじめですウ。一応雇われママやってるから、成人したら是非。」
そういうと、俺と桂にバッグから出した名刺を指の先で器用に回しながらくれる。
「・・・どうも。」
二人で頭を下げて受け取ったが、あまりの指の太さにおののいた。
「こんな時間にご飯食べながらデートか?」
天野さんが聞く。
「え?・・・あぁ、まあ・・・。」
ちょっと恥ずかしくなって小声で言えば、隣の大きなオカマの人は「いいわねぇ~。青春しちゃって!!アタシももう一度高校生に戻りたいわぁ~」と、身体をくねらせながら言った。
「どのみち、戻ったって気持ち悪いオカマじゃないか。今もそう変わらないって。」
「あっら~・・・ヒドイ。あれほど答案用紙移させてやったのに。誰のお蔭で卒業できたと思ってるのよ!」
二人のやり取りが面白くて、つい聞き入ってしまったが、
「同級生なんですか?」と天野さんに聞けば、「そう。」と笑う。
なんとなく、二人の関係は聞かない方がよさそうで、俺は桂の方を見ると目で合図をした。
「あの、俺たちこれで失礼しますから。有難うございました。」
そう言って席を立つと、二人でお辞儀をする。
桂も、今日は天野さんに嫌な顔は出来なくて、すんなりとレジの方へ歩き出した。
「千早くん。」
声がかかり、振り返ると、天野さんがにこやかに微笑んでいる。
「幸せそうな顔してる。・・・・勉強頑張って!」
そういうと、二人は席についた。
俺はなんとなく嬉しくなる。
桂と居る事で、俺の顔が幸せそうに見えるのなら、やっぱりこの恋は正解だったという事だ。
意地を張って、遠回りをしてしまったけど、これからは出来るだけ一緒に居ようと思った。
天野さんも、きっと俺たちを応援してくれる。
そう思うと心強かった。
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