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第76話

 開け放たれた縁側に腰を降ろし、肩にもたれ掛かる桂の手を握った俺は、もの凄く心配になった。 きっと、じいちゃんの具合は悪いんだろうな・・・・。 こんなに動揺して、可哀そうな程震えている。 桂がこんなに怯えるなんて・・・・。 「きっと助かるよ。大丈夫、きっと.......」 俺が話しかけると、手を離して立ち上がる。 「桂.......?」 下から覗き込んだ桂の顔は、ものすごく青ざめていて。 「座っとく方がいいって。......お前の携帯ここに置いておけよ。ばあちゃんからだったら、俺が代わりに出てやるから。」 そう言ったが、桂は俺の方を見ない。 「桂、.......おいっ!!聞いてんのか?」 本気で心配になって、つい大きな声を出してしまった。 「分かってるよツ!!」 肩を落としながらも、大きな声で怒鳴る様にいうからビックリする。 「........千早は、..........こんな気持ちになった事ないからわからないんだ。」 そう言って俺に背を向けた。 「..........そりゃぁ............、俺んち誰も入院したことないし、分かんねえけど..............。」 うちは、みんなバカがつくほど元気で、病院の世話になったのは、俺が骨を折った時ぐらいだ。 でも、桂の言い方はちょっとムカつく。 俺は桂が心配なだけなのに・・・・。 「.........、もう置いて行かれるのは嫌なんだよ。みんなオレの周りからどんどんいなくなる。堪らないよぉ。」 ...............掛ける言葉が見つからない。 離婚して、それぞれ外国で暮らしている両親。 桂の事など忘れてしまったのか.......。 自分の子供を親に託して、どんな事情があるのか知らないけど..........薄情すぎやしないか? でも、それは俺が立ち入る事じゃないし。桂が寂しいなら、俺が側にいるから.........。 「俺はお前の側にいるからな。絶対置いていかない、約束する。」 そういうのが精一杯だった。 「........約束?!」 「うん、絶対、約束する。」 桂が俺の傍に戻ってきたから、その手を掴んで言った。心の底からそう誓ったんだ。桂の手を離さないって。 しばらくすると、自宅の電話が鳴って、それは病院にいる桂のばあちゃんからだった。 じいちゃんは脳溢血で倒れたらしい。 すぐに手術を受ける準備が始まって、まだ時間がかかるそうだ。 しばらくはばあちゃんも付き添うから、自宅には帰れないという話。 「後で着替えとか持って行くから。・・・・うん、・・・うん、大丈夫だよ、千早がいてくれるから・・・。」 受話器の向こうで交わされた会話で分かるほど、ばあちゃんは桂が心配なんだな、と思った。 「ちょっと、桂・・・、俺に代わって。」 そういうと、受話器を受け取る。 「あ、千早だけど・・・、秀治の事は心配しないで。俺んちに来させるからさ。だから、じいちゃんに付いていてよ。」 『千早くん、・・・有難うねぇ、お母さんたちにもよろしく言ってね。』 「はい、大丈夫だから。・・・また後で、一緒に着替えとか持って行くからね、なんか欲しいものあったら電話してください。」 『ええ、有難う。お言葉に甘えて・・・・、秀ちゃんの事よろしくお願いしますね。』「はい。」 受話器をそっと置くと、桂の顔を見る。 「千早ぁ...........。」 そういうと、俺に抱きついて来たけど、その表情はまだ少し不安そうだった。

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