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第75話

 じりじりと焼けるように照り付ける太陽。 俺は校舎の中で一番涼しい場所を選んで入った。 廃部同然の美術室の中に入ると、北側の部屋へと行く。夏休み中の誰もいない部室。 今日は補習授業があって、何人かが呼ばれて受けたんだけど、やっぱり俺も呼び出しを受けた一人だった。 なかなか勉強ははかどらない。 桂が教えに来てくれるけど、二人きりになるとつい身体に触れたくて・・・・。 店の終わる時間まで、上に上がって来る人はいないから、俺たちもついつい別の事に熱中してしまうんだ。 あんまり俺がしつこいと、桂に怒られるけど、アイツだって我慢なんかできやしない。 「あ~あ、やっぱりここで勉強すっかなぁ。」 独り言を言うと、選んでもらった参考書に目をやった。 補習授業はもう終わって、家に帰ってもいいんだけど、多分帰ったらすぐに桂に電話してしまいそう。 高校生の性欲って、ハンパないな・・・・・・・。 - - -  夕方になると、運動部の連中も帰る仕度を始め出し、俺も校門が占められる前に帰宅する事にした。 途中、いつもの堤防を一人で歩けば、あんなに群生していた彼岸花は影も形もなく、いったいいつの間にあんなに真っ赤な花をつけるのかと、咲いた後から思い出す。 花が散った後に、地面から葉が出てくる。 葉は、いつまでたっても艶やかな赤い花を見ることはない。 花も、葉を見ることはなく、同じ彼岸花というのに別々の世界で生きているようで・・・・・。 そういう所が悲しくも思えて、俺の興味も膨らんでいった。 あと2ヶ月もすれば、またあの赤い花を目にするんだろうな・・・・。 自宅に戻ると、何やら母親がバタバタしている。 普段は店にいない親父まで、2階の部屋と店を行ったり来たり。 「どうした?・・・・なんかあったのか?」 「あ、千早お帰り。・・・・さっき、桂くんのおじいちゃんが倒れて。今おばあちゃんが救急車に乗って行ったところよ。」 母親が少し険しい顔つきで言った。 「え、桂は?・・・・どこにいる?」 気になって聞いてみたが、首を傾げるだけ。 「ちょっと家に行ってみるよ。もしかして家で待つように言われたかもしれない。」 「うん、そうね。電話が掛かってくるかもしれないし。千早見てきてあげなさい。」 「・・・・行ってくる。」 俺は、走って桂の家に行く。 玄関の扉はチャイムを鳴らしても開く気配はなくて・・・。 裏庭に回ると、縁側から中の様子を見てみた。 中で人の動く気配はしなくて、もしかして桂も後を追って病院に行ったのかと思った。 - 病院何処だろ・・・・。携帯繋がるかな・・・。 こんな時、自分の事のように心臓がドキドキと鼓動を速める。 桂の入院を知った時も、やっぱりドキドキしたっけ・・・。 少し落ち着こうと、向きを変えて表に出ようとしたとき。 家の中で動く人影が・・・。 「桂?!」俺は大きな声で中に向かって叫んだ。 ドンドンドンッ、と縁側の戸を叩くと、中にいたらしい桂がふらっとしながら出てくる。 「おいっ!!大丈夫か?」 まるで桂の方が病人のようにふらついていて、俺は腕を取ると自分の胸に引き寄せた。 「・・・ち、はや・・・」 弱い声で、俺の胸に頭を付けた桂が言うと、急に身体を震わせてしまう。 「ど、ぅした・・・?桂、じいちゃんどうなった?」 俺が聞くけど、答えることは出来なかった。

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