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第100話
今日は長谷川の結婚式で、朝から柴田が俺を迎えに来ていた。
縁側に立つと、庭先を眺めては「これって大変じゃないか?そんなに広くはないけど植木とか手入れがいるもんな。」と目を剥く。
柴田の見る先には、梅雨の長雨でぬかるんだ庭に植えられた無数の木があった。雑草は先日の休みに抜いたばかり。本当は枝の剪定とか必要なんだろうけど、俺にはちょっと出来なくて・・・。
「今のところはオフクロに来てやってもらってる。新芽の出てるのなんか切ったらいけないからな。」
黒のジャケットを片手に下げると、柴田のいる縁側迄行った。
式場に着くまでは熱いし、今はネクタイもせずに向こうへ着いたら着ようと思って。
「そう言えばさあ、学校に通ってる頃土手の所で彼岸花がいっぱい咲いてたじゃん。あれって民家の庭に咲いてんの見た事ないな。」柴田が何を思い出したのか、突然言い出した。
「・・・ああ、あれはそういうものなんじゃない?!変な話、家に持って帰ると火事になるとかって話もあるぐらいだ。うちの花屋でも仕入れる事なかったからな・・・。綺麗なのに不思議だったんだ、俺。」
古い柱に腕を掛けると、俺は柴田の横で言った。庭にあの赤い花があったら綺麗なのに・・・と思うが、栽培は止めておく。
昔、彼岸花が俺と天野さんを結ぶきっかけとなったが、今は遠い話。
高校を卒業して、2~3度の同窓会があった時に見かけたくらいで、街中では見る事もないし、墓参りをすることもない俺の目には入る事もなかった。
「そういえば、天野さん元気か?」と柴田も昔を思い出したのか聞いてくる。
「うん、あの人は相変わらず元気。もう10年も経つけど、中身も外見も全く変わっていないよ。」
「そうか・・・、未だに裸足で草履なのかな?変わってるよ、あの人。」
柴田は俺にジャケットを手渡すと、縁側のガラス戸を閉めながら言った。
ガラガラときしむような音で、戸が閉まると振り向いた柴田は微笑む。俺にとっても柴田にとっても、記憶に残る出会いの場面だったから懐かしくなったのか。
家の前で、俺たちはタクシーを待っていた。
酒を飲むだろうし、車は運転出来ない。長谷川の結婚式にかこつけて、高校の同窓会みたいな流れになるだろうと思った俺は、2階の雨戸もすべて閉じておく。
「それにしてもよく降るよなぁ。6月だから仕方ないんだろうけど、結婚式に来る人は大変だ。」
「ホント、女の人とか着物で可哀そうだな。」
こういう時、男は服装が身軽でよかったと思う。黒い傘をさして家の前でたたずむ俺と柴田は、顔を見合わせて頷く。
女に生まれなくてよかった、なんて、俺が言うのも変だけど、俺はゲイと言っても女装をしたい訳じゃ無いし、本当にそう思っていた。
タクシーで15分、結婚式場へと着くと、見慣れた顔なじみがちらほらいて、口々に俺の顔を見てはヒゲを攻撃してきた。
「なんだよ、カッコつけか~?小金井のキレイな顔、俺好きだったのにさぁ。」
そんな事を昔の同級生に言われ、俺も返す言葉がなかった。
「なんだ、吉川ってそっち系?男に綺麗とか、言わねぇだろ、普通。」
誰かがそんな事を言って、俺は少しだけドキッとする。自分の性癖は誰にも教えていない。一部の人間は’そう’なんじゃないかって気づいているだろうが、あえて公言はしない。
「悪かったなぁ、美貌の少年が髭面のキタナイおっさんになってさ!」
俺は周りに対して、わざと笑いを取りに行くが、柴田はフフン、と鼻で笑っただけだった。
しばらくして式が始まると、奥さんになる女性が、自分の父親と腕を組んで現れる。
(バージンロード)ってやつか・・・。
なんとなく人ごとで、バージンじゃねぇだろ。なんて心の呟きはそっとしまった。
長谷川と並んで立つ女性との間に、いい感じのオーラが発せられていて、俺にも分かる二人の幸せな空間が羨ましくもあった。
そんな二人の姿を目の当たりにすると、益々桂には早く帰国してほしくなる。まだほんの少ししか離れていないのに.........。
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