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第101話
長谷川の結婚式は、俺たち友人が少し浮いていただけで、滞りなく終わった。
「誰だよ、歌なんか歌おうって言いだしたの!」
足元をふらつかせながら怒っているのは、吉川という同級生で。
「関だよ。こいつが『やっぱり結婚式と言ったら友人たちの歌だろう』って言ったんだ。」
柴田が笑いながら言う。
「言い出しっぺが音痴とか・・・・・あり得ない。超恥ずかしいって!!」
「ホント、俺、関とはカラオケ行った事なかったんだよな。知らなかったわ~。」
「うるさいな~、あれはアレで盛り上がっただろっ!いいんだよ、ヘタぐらいの方が。」
俺の前を高校の同級生が仲良く言い合いながら歩くのを見ると、10年はあっという間の出来事だったんだと感じる。
こうして仲の良かったメンツが顔を合わせれば、すぐにでも気持ちは高校生に戻ってしまうから不思議だ。
「なあ、明日仕事休み?これから飲み直さないか?」
吉川がみんなの顔をぐるりと見回すと言ったが、俺は生憎日曜日がかき入れ時で、店を閉める訳にもいかず「すまん。俺ダメなんだ。悪いな・・・。」と謝った。
「え?・・・ああ、そうか小金井は店やってるんだもんな。」
「仕方ないさ、社長兼売り子だもんな。しっかり稼いでおごってくれよ。」
「今日はもう飲めないだろ。散々飲みまくってんだから・・・。帰るか・・・?!」
みんな俺に気遣っているのか、口々に言うと吉川も「じゃあ、今日の所はお開きで。・・・また今度な。」と手を上げると分かれて行った。続く関と柴田も、「じゃあな。」と言いながら俺の前から離れる。
一人取り残された俺は、トボトボと大通りを目指して歩いた。
来るときに一緒だった柴田も、別の通りでタクシーを探すんだろう。俺はジャケットを脱いで肩にひっかけると、酔って熱くなった頬をピシピシっと叩いた。
- さっさとシャワーでも浴びて寝るかな?!
丁度タクシーが来て、俺が手を上げると止まってくれる。
「すいません、三田駅の商店街迄。」
行き先を告げて、タクシーに乗り込んだ。
「三田駅ですね。かしこまりました。」
運転手が確認したので、安心して車のシートに身体を預けると目を閉じた。
瞼の奥に、先ほどの結婚式の光景が浮かんでくる。
目映い光に照らし出された新婦のドレス姿。綺麗だったな・・・。
隣で長谷川が照れたように顔をほころばせる。
アイツでも、あんな顔するんだな・・・。
凄く幸せそうだった。世界中の幸せを手に入れたみたいな、そんな自信にあふれた二人を見ていると、俺まで幸福感に包まれる。
実際にあそこにいるのは俺じゃないのに・・・・。
そう思うと、少しだけ寂しくなる。
多分、俺には一生縁のない場所。
目映い照明も、みんなの祝福も・・・・・。
「はぁ............。」
思わずついたため息に、自分で押しつぶされそうになる。
さっきまでの幸福感が、みるみるうちにしぼんでしまう。
家に着いて、引き出物をテーブルに乗せると、俺はそのまま居間の畳の上で大の字に横たわった。
暗い天井を仰ぎながら、たった一人でここに居るという事を痛感する。
「ここって、こんなに広い家だったかな~。」
一人で呟けば、戻る返事もない。
蒸し暑い部屋の中で、そのままうつ伏せになるといつの間にか眠ってしまったようで。
汗だくになって目を覚ませば、縁側のガラス戸の向こうに見える木蓮の木が、月明かりに白く照らされていた。
俺はそのまま這うように縁側迄行くと、ガラス戸を開けて風を入れた。
汗で湿った顔や体に、夜風が当たって心地いい。ひとつに結わえた髪を解くと、そのまま両手でかきあげる。
そうして、はぁ、っとまた一つため息をついた。
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