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第137話

 三十手前の男と、高校生の奇妙な同居生活。 もとい、おーはらは、先日港南工業高校を無事卒業した。 俺の後輩にあたる訳だが、やっぱり勉強は好きじゃないらしい。それに、手に職を付けないと生きて行けないのを知っていて。 おじさんという人に一度だけ会ったが、俺が店を経営しているのを知って安心したようで、おーはらの母親とは籍も入っていないし、子供だけ置いて行かれて困っていたようだった。 俺が期限付きで預かるというと、是非ともお願いすると言って、おーはらの母親が残して行った金を渡してくれた。 「一応お前の金には手を付けていなかったみたいだな。オフクロさんに逃げられて一時期だけ生活が荒れていたんだろう。ちゃんと学費も払えて良かったじゃないか。」 桂の写真立ての前で、花を生け変えながらおーはらに言うと、「そんなの、小金井さんの前だからそう言ったんですよ。あの人、パチンコ好きだし、絶対使い込んでるんです。」と、口を尖らせた。 「まあ、少しぐらいは大目に見てやれ。少なくとも外に追い出されなくて済んだんだし.....。」 「..............まぁ、そうですけど.........。」 「ところで、期限付きでお前を預かると言ったが、アレは本当にそう思ってる。ここは出なきゃいけなくて、今、知り合いに頼んで部屋を探してもらっているんだ。」 おーはらに向き合うと言ったが、少しだけ寂しそうな顔をされる。 「小金井さんは、淋しくないんですか?桂さんて恋人を亡くして、一人のままで。........僕ならとっとと新しい恋人探しちゃうけどな。」 おーはらのいう事も分かる。 俺だって一人でこのままいるのは寂しいと思う。でも、俺の心の中には桂しかいないんだ。アイツが死んだと分かっても、俺の中の桂はまだ生き続けてる。.........俺が殺さない限りは.........。 「僕が小金井さんの恋人になってあげるって言ったらどうします?」 そう聞いたおーはらの目は、ちょっと潤んでいた。 「.......どうもしないさ。お前を犯した償いはするって言ったけど、俺の恋人には出来ない。」 「もう、.........ホントに酷いなぁ。これじゃ飼い殺しですよ?!うりはするなって言った、でもセックスの相手はしてくれなくて!!」 半分拗ねているのかキレているのか........。 確かに、うりをしたら追い出すつもりでいた。もちろん、そんなの本当にしたかどうかは確かめようもないんだけど。 でも、おーはらの言葉を信じて、もうしないから此処に置いてほしいと言われて、俺はホッとした。 桂が居たら絶対にしない事だけど、俺はやっぱりコイツを放って置くことが出来なかったんだ。 どことなく桂に似た感じのおーはらが、あんな見ず知らずの親父に買われているって事が許せなかった。 せめて、高校を卒業するまでは、まっとうな人間になってほしい。その後、成人したら自己責任てヤツで何とか生きていってほしい。 そんな風に考えているから、もう、コイツと寝ようなんて考えはおこらなかった。 俺のベッドに入ってきても、そっと抱きしめて体温を感じるだけだ。 「そういえば、バイトの方はどうした?専門学校に通いながらバイトもするって大変だぞ?大学と違って授業の無い日がある訳じゃない。びっちり詰め込まれて、その上美容室でのバイトは.......。」 と、気にかかった事を聞いてみた。 「大丈夫ですよ。若いんですからね、全然平気です。それに、お金貯めないと、アパート借りられないし。」 少しだけ語尾が下がる。 俺と居たいと言ってくれる気持ちは嬉しいが、天野さんじゃないけど、こんな年の離れた奴と付き合うなんて無理だし、桂が許さない。 「ま、本当は年内に出るつもりが、桂さんの配慮で伸ばしてもらっているんだ。少しでも早く部屋を見つけるから。お前も探しておけ。」 「分かりました。オーナーが保証人になってくれるっていうから、近いところを探してみます。」 「.....いいか、金に困ってもうりなんかするんじゃないぞ。その時は俺に言え。無利子で貸してやるから。」 それだけ言うと、俺は自分の店へ行くためにジャケットとバッグを持って玄関に行った。 「....金を貸すんじゃなくて、僕を買ってくださいよ!」 と、おーはらの声だけが居間から響いて来るが、俺は聞かなかった事にして靴を履くとドアを閉めた。

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