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第136話
- 目の前を走る一台のオープンカー。
何故だか俺は南国の島にいて、ハイウェイを走る車の中に居た。もちろん俺が運転しているんだけど、ハンドルを切ろうとしてハンドルがない事に気づく。
『あっ、ヤバイ。このままじゃ絶対ぶつかる!!曲がれないじゃん。どうすんだよッ!!!!!!』
と、叫んだとき、目の前のオープンカーを運転している男が俺の方を振り返る。
『!!か、つらッ!!!!!』
その顔は桂だった。
桂は俺が運転するのを嫌っていて、危ないからダメだとハンドルを握らせてくれなかった。
-----このまま何処かにぶつかってしまえって事か?!俺がお前の所へ行くのを待ってるのか?!
「か、つらぁ---------ッ」
「小金井さん。...........どうしました?」
「----------ぇ?」
目の前に居たのは、おーはら君で。
「叫び声が聞こえて..........、怖い夢でも見たんですか?」
「--------ん、まぁ、な。」
呼吸を整えて自分の胸をさすったが、心臓がハンパなくドクドクと脈打っていた。
桂が、俺の死を望むはずないのに.............。変な夢だ。
「僕、ここで寝ます。小金井さんの横で」
そういうと、布団をめくって隣に入ってきた。
「お、オイ.......、ちょっと、何してんだ。」
焦る俺に、「この間、償いはするって言いましたよね。」と言われ、確かに送って行った時に話した気はする。
訴えたければ、俺を訴えてもいいって言って。
「.....償いは、するけど.......」
「じゃあ、ここで眠らせて下さい。僕、淋しいんです。ひとりで寝るのは嫌いだ........寂しくて死にたくなる。」
「........おーはら..........」
それ以上は何も言えなくなった。
俺だって、ひとりで寝るのは寂しいさ。桂の体温も忘れてしまう程、もう長い間一緒に寝ていないんだから。
「おやすみなさい。」
一言だけ言うと、おーはら君は俺にしがみ付いてきたが、そのままスースーと寝息を立ててしまった。
頬に当たるフワフワの髪の毛。
くすぐったくて指で避ければ、そのままおーはら君のおでこに頬を当てる。
この間の、うっすらと記憶に残った白い肌が、俺の瞼に浮かんできたが、今はゆっくり体温だけを感じて眠りたかった。
- かつら、.........ごめんな..........
- - -
翌朝、俺が起きるとベッドにおーはら君の姿は無かったが、下からは美味そうなみそ汁の香りがしてきて、思わず気持ちが温かくなった。実家のオフクロが作ってくれたみそ汁が最後だったもんな。
階下へ降りて行けば、「おはようございます」と、おーはら君がにこやかに微笑む。
「おはよう.........ちゃんと起きられるんだな」
「.....当たり前です。これから学校行ってくるんで、また終わったらここへ戻ってきていいですか?」
お椀にみそ汁を注ぐと言ったが、断わる気持ちも萎えるほど、哀願の眼差しで見られてしまう。
「.......いいけど、心配かけるかもしれないから、一応おじさんに話しておけよ。」
「はい、そうします。」
急にテンションが上がった声になると、テーブルに並べたご飯茶碗を俺に渡してくれた。
「じゃあ、僕は行ってきます。食べ終わったら流しに浸けておいてください。帰ってきたら洗いますから。」
「.......ああ、行ってら。.........あ、カギは.........」
そういうと、棚に置いた自分のキーケースから、一つ外しておーはら君に放り投げた。
「ありがとうございます。」
「うん、........気を付けて行け。」
振り向きざまにニコッと笑い顔を見せると、おーはら君はデイパックを持たずに、スクールバッグを肩に下げて出かけて行った。
- なんだよ、スクールバッグ持ってるのかよ...............。
玄関のドアが閉まる前に「行ってきま~すッ」という声が聞こえて、急に家の中が明るくなった気がした。
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