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episode.6-9
予告も挟まず、寝屋川は相手に何かを投げて寄越した。慌てて反応した萱島が手を出す。
「何です…ん?キーホルダー?」
「GPSだ」
ふむ。思考する姿を放り、上司は手近の遺体へしゃがみ込む。
コストを重視した量産品の患者衣。その裾を捲り、ポケットへウェアラブル機器を仕込んだ。
「適当な遺体に隠せ、見つかりそうなら口内に押し込んでも良い」
「位置補足ったって…何故死体の…」
詳細を請うていた萱島が口を閉じた。
建物の外部から、今度は腹に響く様なエンジン音が迫っていた。
徐々に数を増やし、ユニゾンを奏でる。
この音は散々聞いてきた。ゆっくり首を擡げるや、予想通り空には大量のハイエナが躙り寄っていた。
「スカベンジャー?どうして此処が」
「ああ妙な話だ」
腰を上げ、寝屋川が仕事を終えたM4を掲げ直す。
「お前に出会した件でも、奴ら降って湧いた様に駆け付けやがった。鼻が利く、で片付けられる範疇じゃない。繁華街なら未だしも、こんな僻地まで即座に反応するなんてな」
ホバリング後、狭い庭へ数機が無理矢理着陸を試みた。
都会に巣食っているから慣れたものだ。難なく腰を下ろした遺体回収業者は、黒い機体から次々と飛び出てきた。
今日は人数も多いな。
必要人員も割れていたのか。
だとすれば疑う所は一つ、ハイエナが私有地であるアルカナの監視カメラを見ている筋だった。
「玄関から来るらしい、出迎えてやれ」
「貴方の確認したかった件とはこれですか」
寝屋川が答える前に彼らが到着した。いつもの様に人相を隠し、勝手知ったる面で現場を踏み荒らす。
中から代表らしい男が接近し、形ばかりの挨拶を寄越した。
「お世話になっております、こちら運搬致しますか?」
なーにが世話になってるだ。いつも其方が勝手に来ては死体を漁るだけだ。
不平をありありと乗せたまま、萱島は無気力にGOサインを出した。
「…ええ全部残らずね」
「生存者はどの様に?一旦金額を査定しますか?」
「結構、さっさと持って行ってどうぞ」
コイツも多分、何度か会話した覚えがある。萱島とて過去に山程利用していたが、ちっとも好きになれない連中だった。
ただ仕事ぶりは変わらずスマートだ。
あれだけ犇めいていた患者を、次々と担架で運び出してしまった。
ヘリだけでなく、トラックも来ていたのだろう。30分も待たず施設はすっからかんになる。
実の所、遺族にすら何の許可も取っていないが。事後処理は初めから大城らに丸投げすると決めていた。
「さて…ネットが使えるパソコンはあったか?」
再びヘリの一団が爆音で去り、満を持して寝屋川が口を開いた。
「案内しましょう、どうぞ此方へ」
呑気に寝入る相模を置き、両者はフロント横の制御室へと走る。
さっきログインしたラップトップを示し、萱島は上司の隣で操作を見守った。
ソフトを落としてトラッキングを開始する。ログインするや、複数のポイントがマップ上で点滅を始めた。
残念ながらヘリが高度を上げたのか、補足が非常に不安定だ。
そんな中一点、順調に道を進むポイントがあった。
運良く車輌に乗り込んだのか、2人の注意は自然其処へと吸い込まれた。
「…スカベンジャー…もといサーヴァントは、港の冷凍庫へ一旦死体を運び込む。それからは興味も無かったので知りませんが、海に捨てているか、海外の船と落ち合って臓器売買に卸しているかのどちらかだと言われていました」
萱島とて、遺体回収業者の異質さに疑念を抱かなかった訳ではない。
然れどそれが零区という場所なのだ。そう納得してしまっていた。
「冷凍庫は不味いな、発信機の耐寒温度を下回るぞ」
「まったく、ただ貴方様、凡その行き先は見当がついてらっしゃるのでは?」
点滅は北部へ向かい、次々と橋を通過する。数十分と集中していただろうか。
漸く対象は、その他大量の遺体と共に彼らのホームへ帰還した。
「今回の件で恐らく、サーヴァントが彼方此方の監視カメラにアクセス出来ると判明した。常日頃、奴らは天網を張り全土を把握していた訳だ」
ポイントの動きが停まった。矢張り、冷凍されて終いか。
無意識に緊張を走らせ、4つの眼球が睨め付ける。
「…隊長、元々監視カメラが誰の物かご存じですか」
萱島の台詞は続く。自分こそ予測のついた面で、じっと行く末を覗き込んでいた。
「この土地は嘗て帝命製薬の所有でした。約2年前にベッドタウンとして解放したが、今でも殆どの不動産が管理下だ。私有地だろうがカメラもすべて、研究所にあったものが残存しているだけで、要は」
対象の位置が動いた。Uターンし、本来塀で覆われた箇所を擦り抜け、そして。
「初めから癒着を疑うべきでしたね」
遺体は非正規ルートから帝命製薬へ侵入した。
薬物患者を運搬するハイエナと零区の主。小さなラップトップの液晶で、今2点が明確に重なった。
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