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あとがき
御坂先生は幾つの布石を打ったのでしょう。
牧が恨みを買う展開を避け、自ら絶つ道を選んだ。戸和の自棄を予期し、彼を境遇の同じ感染者と共に、生の執着へ導いた。
そして(遭遇は予想外だったと言え)想いを渉に託し、戦乱を収める希望とした。
恐らく彼は零区の創立から終幕までのシナリオを組み立て、人知れず事を進めていたのだと存じます。終わりのないプロジェクトをせめて最低限に抑え、次第に消滅へ導く筋書きを、懸命に。
随分遡った話で恐縮ですが、6話の末尾で「この物語の主人公は誰か?」とご質問させて頂きました。勿論、皆様の思う主人公を置いて下さいと委ねたい所ですが…。
一応答え合わせを致しますと、作者が設計したヒーローは御坂先生です。
物語は時系列に並べてみると、彼が一人の女性と子供を宿し、やがて離れ離れになり、遺体で再会した彼女を救うべく抗い。
そうして開発したウイルスから零区が誕生し、漸く萱島さんの登場シーンへと繋がる訳です。
更に物語自体は彼の死を持って完結し、その意志は息子の渉くんへと託される。
最初から最後まで彼を主軸に置いたストーリー構成で、後は視点を切り替え、様々な側面から顛末をお送りしておりました。
故に、何処かで「牧はアンチ・ヒーローだ」と申し上げましたが、それは御坂先生を主軸にしたこの台本に限ります。
もしも彼の生涯を追った流れであれば、また逆の位置づけに裏返り、きっと全く別の色を見せていました。
牧でなくとも同様です。
誰を主役に置こうが違った情景になり、それぞれの人間臭い内面が漏れ出る。
今作「Egoist War」は及ばずながら、その様な意識を胸に、人対人のドラマを必死に追求しました。
力量不足で、お目汚しな点も多々御座いますが。今は最後まで妥協なく完結に漕ぎ着けられ、一先ず安堵しております。
さて。1年近い構想期間を経たお陰か、すっかり語りまで冗長に伸びてしまいました。
この様な場所までお付き合い頂いた読者様、並びに応援して下さった方々に何時迄も感謝の念が耐えません。
拙作が皆様の心に一つでもインスピレーションを残し、些少でも新しい感性を築けましたら幸いです。
ではまたお会い出来る日を夢見て。
次への期待を結びとしつつ、お別れさせて頂きたいと存じます。
2017.10.21 SA
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