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第4話

                    ◆   訪ねた三並の住まいは、小ぎれいなマンションだった。橋口から聞き出した部屋番号のインターホンを押すと、気だるげな返事が聞こえる。三並の気配は玄関ドアの前でぴたりと止まった。きっと、来訪者を確認して立ち尽くしているのだろう。 「おい、開けてくれ」  ドア越しに三並を呼んだが、返事がない。けれど、気配はあるから、きっと側にいる。吉崎は乱暴にドアを叩いた。 「いるんだろ? 分かってるって」  すると、観念したのか、鍵の開く音と共に、そろりとドアが開き、三並がそっと顔を出した。その目が赤い。 「泣いてたのか?」 「違う。何の用だ」 「あー。さっき、あいつ殴ってきた」 「は……?」  三並はあっけに取られたように立ち尽くし、その手から力が抜けているようだった。それ幸いにと、吉崎はドアの隙間に足をねじりこみ、玄関に滑り込む。背中でドアが閉まる音を確認してから、まだ立ち尽くしている三並の腕を掴んだ。 「お、まえ、橋口先生を、殴ったのか?」 「悪い、正確には殴ってないぞ。脅しただけだ。お前のやってること知ってる、女のことも知ってる、だから三並と別れろって」 「なんでそんな勝手に!」 「そうしなきゃお前、またあいつに触らせるんだろ? 俺は嫌だ」  三並の事は、ただの同級生だと思っていたはずなのに、どうしてここまでこだわってしまうのか、自分でもよくわからない。けれど、この衝動だけは何故か殺せないのだ。  三並は吉崎の腕を振り払うと、逃げるように部屋に飛び込む。それを追って、吉崎も部屋にあがると、すぐに捕まえた。 「どうして、吉崎」 「どうしてだろう。でも、俺はお前をほっとけない」 「――好き、でもないくせに!」  そうかもしれない。でも、それがなんだというのだろうか。 「でも、好きかもしれない。悪い、自分でもわかんねえんだよ、どうしてお前をほっとけないと思うのか」 「そんなの卑怯だ。俺は嫌だ、お前だけは駄目だ」 「何でだよ」 「そんなの! 俺がお前を好きだからに決まってるだろう! 分かっているくせに言わせる、本当にお前は酷いやつだ」  三並に襟首をつかまれて苦しいはずなのに、どうしても笑いが殺せない。そんなの、最高の告白じゃないかと思う。  ――可愛いな、こいつ。  そう、可愛いのだ。そう思ってしまうともうそれだけでいいような気がした。 「何で、好きなんだからいいだろ?」 「好きだから、怖いに決まってるだろう! お前に離れられたらもう、立ち直れない。だから、見てるだけでよかったのに」  まるで自棄のように告白を叫ぶ三並を、吉崎は引き寄せると、そのまま吉崎を拒否する唇を塞いだ。 「んっ!」  そこは柔らかく、熱く。鼻から抜ける甘い声に、頭の奥が痺れる。もっと甘い声が聞きたくて固く結ばれた唇を舐め、ひるんだ隙をみて咥内にねじ込む。 「んんっっ!」  すぐに舌を絡めとって、優しく吸った。三並の体が小刻みに震えるのが可愛い。吉崎は夢中で咥内を貪る。その度に肩を震わせていた三並だが、やがてその手が吉崎の背に回る。しがみ付かれていると気づいた時、たまらなくなった。  ぴちゃりと水音をたてて唇を解放すると、三並は苦しげに首を振る。 「こんなこと、されたら、もう、俺は」  そんな可愛いことを言うとどうなるか、三並は分かっていないのだろうか。吉崎は口の端に笑みを浮かべたまま、そっとその首筋に唇をつけた。 「あっぁ!」  跳ね上がり反り返る首に、執拗に口付ける。 「っふ、ぁ、ん」  もう拒否を口にしなくなった三並にほっとしながら、吉崎は丁寧に柔らかく、何度も口付けた。床に押し倒してしまった事は、背中が痛いんじゃないかと少し心配だったが、Tシャツをめくり上げた時に覗いた白く滑らかな肌がまぶしくて、そんな気遣いも忘れた。 「あっ、よしざ、き」  弱々しく呼びながら、三並の手が吉崎の腕にすがりつく。そんな事を可愛いと思いながら、吉崎は三並の下半身に触れた。 「んんっ」 「お前、可愛い声出すのな」 「お、お前だって、声、がいい」 「俺の声? そうか?」 「あぁっ、うん、橋口せんせ、お前に声が似てて――それで」  声が似ている、それだけで橋口に付き合っていたのだろうか。  ――俺にされてると思って、我慢してたとか?  そうだとすれば、とんでもない愚考だと思う。そして、とんでもなく健気なのだと。たまらなくなった。 「ん、ああっ、や」  握っていたソレを激しく擦ると、しなやかに反り返る三並を、全て自分だけのものにしたいと思う。もう、思考はそれだけになった。 「あっ、吉崎、よしざきっ、お願い、きて」 「いや、待て、その俺、初心者だから色々と」  少しばかりの知識は持っているが、それだけだ。今まで抱いてきた女性の誰とも違う、そんな相手を欲望のままで暴く事に一瞬躊躇した。 「いいから、お願いだ、思い出でいいから、欲しい」 「っ、思い出になんてさせねえよ」  三並の片足を抱え上げると、その場所を探る。 「ま、って、ローション」  三並はごそごそと辺りを探り、小さなボトルを吉崎に渡した。使った事はないが、利用方法はなんとなくわかる。とろりとした液体を手につけて今度はうつ伏せに転がした三並の双丘をまさぐった。 「っふ、あ」 「悪い、痛いか?」 「だいじょう、ぶだ。好きに、してくれ」  それはまるで慣れているから、といわんばかりで、嫉妬で目の前が赤く染まった気がした。 「三並、俺を呼んで」 「え?」 「他の誰の事も考えるな、俺の事だけ」 「よし、ざきっ」 「うん」 「吉崎、よしざきぃ」  甘ったるく呼ばれて、満たされていく。ぐちゅぐちゅと蜜音を鳴らす場所がやんわりと解けて、吉崎を誘う。もう、限界だった。 「いい、か?」 「ん、早くきて――」  三並の言葉が終るか終らないかのタイミングで深く穿った。 「ああっ、ん、あ」 「キツっあまり締めるなよ」 「むり、言うなっぁ」  細い腰を抱いて、そっと揺さぶるだけで、吉崎は達しそうになる。  ――ってあんまりにも情けねえだろ俺。  でも、うねりながら包み込んでくる三並の熱に溶かされそうで、快楽に痺れた。 「っぁ、みなみ、三並」  奥までついてから入り口まで戻り、焦らすように浅くつくと、三並は黒い髪をゆらしておおきくかぶりをふる。 「や、もっと、欲し……っ」 「くっそ、こんなに慣らされやがって」  筋違いの怒りは、嫉妬のせいだ。分かっているだけに、胸の痛みすら甘く感じる。これではまるで、恋に溺れているみたいだ。  ――恋? 俺が三並に?  少し前まで、ただの同級生だったというのに、どうして今はこうも激情を揺さぶる存在なのだろうと思う。 「あっ、ああ、っ、吉崎、ぃ……!」 「っく、もう、駄目だ!」  いっそう強く穿つと、三並は精を床に撒き散らし、吉崎も最奥ではじけた。 「んあ! ぁ、ぁ」  床にへたり込んだ三並の隣に横になりながら、そっと細い髪を撫でる。ただ、愛しかった。 「どうして、こう、なったんだろう」  おとなしく髪を撫でられながら、三並が震える声で呟く。 「嫌、だったか?」  吉崎も同じことを思っている。どうして、こうなったのだろうと。 「嫌じゃ、ない。でも、死にそうだ」 「何で」 「怖い」  一人になるのは嫌だからと、橋口に好きなようにさせていた事を思い出し、吉崎はなるだけ優しく笑った。 「俺はお前を離さないよ」  三並はそれをボンヤリと見つめたあと、ぽつりと呟く。 「いや、お前はいつか俺を捨てる。分かってるのに、俺は馬鹿だな。嬉しくて、幸せで、死にそうだ」  ――ああ、俺、もういいや。  吉崎を可愛いと思い、ほっとけない、愛しいと思う理由など、もう、探すのはやめよう。 「死なれたら困るんだけど――もう一回していいか?」  そう言うと、三並は呆けたように薄く唇を開き、それからつぼみがほころび花が開くように、密やかに微笑んだ。この顔だけが答えのような気がする。  ――なんだっていい。三並が笑うなら、なんだっていいんだ。  それがたとえ、恋と呼ばれなくとも。                             終    

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