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ピアノソナタ 人狼 第一楽章

* ひんやりとした館の中は物音一つしない。 ノワールとルグリの腰元にぴったりとくっついた二人がその小さな耳をそばだてても、ネズミの駆ける足音すら聞こえなかった。 「なんか、なんもねーな。」 貴族だ領主だと聞いていたから中はゴテゴテと主張の激しい装飾品や、権力をひけらかすような調度品でも置いてあるのかと思いきや壁は漆喰の白とオーク材木のこげ茶色で統一されたシンプルな見目だった。 置いてあるものも一般家庭から見れば多いのだろうが、貴族の屋敷のイメージとはかけ離れたものだった 「金目のもんは全部売っぱらっちまったのかもな。」 ルグリは正面の階段の脇においてあるチェストに目をやった。 決して豪奢な作りではないが取っ手や天板の隅まで細やかな彫刻が施してある。 くるりと巻き上がった四隅木の上に、それぞれ兎と白鳥と獅子と人が彫り込まれていて全てが全く正反対の外側を向いているその様子はなんだか寂しげに思えた。 取っ手には薔薇、百合、もう一つよくわからない花が彫り込まれている。若干使いづらいんじゃないかと思いながら指でたどってみると思いのほか指先についた埃の量は少なかった。 ノワールは階段を登った先、真っ白な漆喰の上に1枚だけひっそりと置かれた絵に目を奪われていた。 それは別に色彩が鮮やかなわけでも、立派な額に入っているわけでもなかった。ただそこに、 美しい女の子どもがかかれていた。 年の頃は10歳そこそこだろう。 白いワイシャツに黒いパンツ、持っているのは真っ白な百合。 見たところ異国の人間のようだ。 薄く持ち上がった唇には恥ずかしさがほのかに宿り、瞳にはちょっとしたあきらめが見て取れる。 ノワールは別に画商の生まれでもないのだが、そんな素人目にもこれは傑作だと思えた。 上2人が惚れ惚れと作品を見ている間にネージュがなにか聞こえてくるのに気づいた。 「る、ルグリ!なんか...ピアノの音が聞こえる!」 不意に腰元を引っ張られてルグリが顔を上げる。 すると確かによくよく聞けばばピアノとわかるかもしれないと思われるような微かな音が響いて聞こえてくる。 ノワールもこれに気づいたようでクイッと顎で上の階を指した。 この館の窓は縦に数えて四つ。つまりここは四階建てだ。グランドピアノは結構大きな音が出る。一階にいてこの音の大きさなら考えられるのは三階か四階。しかも奥の方の部屋だろう。 バラけていた4人はもう一度かたまって、なるべく足音を立てないように正面の階段を上った。

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