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第9話

「ありがとう。お爺様は元気?また会いたいと伝えて」 「ああ、施設で快適そうだよ。爺さん、全部カタがついたって言ってたぜ。俺の取り分は爺さんから貰ったから。それと…坊ちゃんお願いがあるんだ。そこの木偶の坊を幸せにしてやってくれないか」 大吾は立ち上がり、木偶の坊と称された清彦の横に並び立った。 「俺は爺さんと坊ちゃんに言われた通りにしただけだ。それと昨日の奴はやっぱりご当主の差し金だった。おまえ、肩外してたんだな…やっぱすげーな。勝てる気がしねぇ」 肩に置かれた手から人差し指が伸び頬に食い込む。昔ふざけてよくやっていたことを思い出す。 「俺はさ、ずっとお前の親友なんだよ。だからもっと頼っていんだよ。昨日の貸しは坊ちゃんにお願いしたからチャラにしてやる。それとお前の実家、爺さんに頼まれてリフォーム済んでるぜ。また住めるようにってな」 話の見えない清彦は「じゃあな」の声に「ああ」とだけ反応した。 「清彦、ぐるぐるしちゃってる?ごめんなさい。僕は僕の仕事を全うしただけなんだ…僕は成宮の跡取りだからね」 立ち上がった柾樹は清彦のそばに行き、両手を広げた。初めてあった日、清彦が柾樹にしたように。 「もういんだよ。おいで、清彦」 そう言い、小さな身体で目一杯清彦を受け止めようとしてくれている。 「柾樹…」 引き寄せられるようにその腕に辿り着き、あの頃のように柾樹は抱きしめてくれた。 「清彦は僕のこと、好きだよね…沢山愛してくれて大切に育ててくれた。これからは僕が清彦の家族になるよ。あ、違う…清彦の家族兼、恋人になるんだよ。僕に自慰を教えてくれてる時、清彦も…ちゃんと知ってる。もう隠さなくていんだよ。僕は清彦のものなんだから」 背伸びをしながら必死に抱きしめてくれるその姿はあの時のまま。小さな腕の中は温かかった。清彦の心を温める充分な愛を柾樹は与えてくれている。 大吾の『カタがついた』とは何を意味するのか知りたいが、自分を欲しがる柾樹の姿に、素直に嬉しいと良い方向に向いていると期待を持ち、清彦の胸は走り始めた。 手を引かれ、昨晩の悪夢があったベッドに押し倒される。華奢な身体のどこにこんな力を隠していたのかと驚き、そして覆い被さる柾樹はあの頃の可愛らしい面影を見せながら語りかけた。 「ここで寝る度、昨日のことを思い出すから…ここで上書きしよう。清彦と愛し合いたい」 どこでそんな言葉を覚えたのか。 毎日、片時も離れず暮らしてきた柾樹は清彦の思惑をはるかに超え成長し、見たこともない艶やかな笑みを浮かべた。 「まさか…そんな気、ないなんて…言わないよね?」 見惚れていた清彦は柾樹の言葉で覚醒する。そう柾樹はあの頃のままではない、十八歳になる青年だと思い知らされる。 「抱くよ、抱きたい。柾樹…」 反転し、シーツに沈められた柾樹は嬉しそうに手を伸ばし、清彦の首に腕を絡ませた。 「愛してるよ、清彦」 触れた唇は牛乳の味がして、幼い頃を思い出し喉元で笑った。 蝉がうるさく鳴いていたあの暑い夏の日、出会った柾樹に囚われ、自分だけが愛していたわけじゃなことに気付かされる。 きっとこの先も柾樹に愛されていくんだろうと、清彦は溢れるものを吐き出すようにその華奢な身体を抱きしめた。

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