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 本当だったら今すぐにでも屋根裏に行き、あの隙間から癪に障る男の面でも拝んでみたいものだが……時間がかかるうえに回答を聞けない可能性が高い。  僕はジッと我慢して、硬くざらついた壁に耳を当て続ける。 「この下宿の学生が、お前が坂間に連れられて部屋に入って行く所を見た奴がいてな。人間不信のようなお前が、まさかあの坂間と懇意の仲だったとは驚きだと彼は言っていた。俺だって不審に思う。坂間は美男子だが、素行が不良だとも聞く。そんな奴とつるんでいるせいなのか、最近のお前は少し変わったように思えてならん」  散々な物言いに僕は腸が煮えくり返りそうになるのをグッと堪える。  それ以上に、誰かに見られていたとは想定外だったのだ。別段、聞き耳を立てられたわけではないはずだ。何が行われているのか分かっているのならば、このいけ好かない男も流石に口を出すのを憚るだろう。それでも此の場所での遊戯は控えた方が良さそうだと、僕は歯噛みする。 「変わったって……どんな風に?」 「どうって……なんて表すれば良いのだろうか……妙に艶っぽいというか……まさか(くるわ)に連れて行かれているのか?」  男の見当違いな回答に、怒りを通り越して僕は呆れてしまう。僕は一度としてそんな場所に行ったことなどない。憶測だけで物事を述べる講釈野郎といるほうが、よっぽど天宮くんにとって害悪だ。 「郭など、僕はそんなとこはお断りだ。しかし……そんな風に見えるのか……」  失意にくれているのか、天宮くんの声は弱々しい。  僕は壁から耳を離すと、少し熱を持ち痛む耳を擦りつつ思案する。  これは不味い事になってしまったようだ。このままでは天宮くんは、僕との遊戯をやめてしまうかもしれない。それだけはどうしても、阻止したかった。そこで僕はふと、思い至る。  真にふさわしい相手は僕しかいないのだという事を、天宮くんに(さと)してあげれば良いのだ。  考えが纏まった頃。隣の襖が開く音と共に、廊下から話し声が聞こえてきた。  僕は少し待ってから、襖を首が出せる程度に開き恐る恐る顔を出す。  天宮くんと長身で体躯の良い男の後ろ姿を捉え、僕はすぐさま顔を引っ込め襖を閉める。

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