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第4話

 開かれた扉から射し込む光は、つま先に届きそうなところまで伸びて、またゆっくりと引き返していった。壁に背を預けたまま馬鹿でどうしようもない男の背中を視線だけで見送って、やがて再び扉が閉ざされてからは忘れるように目を閉じた。 「………」  さあ  俺には俺の仕事がある。  幾ら投げ出したくても、逃げ出したくても、指先から肌を伝い、脚に、腕に、全てにまとわりついて逃げられない俺の運命そのものだ。数えきれないほどの抵抗の末、そのことを今では諦めるように受け入れている。ふと、あの馬鹿な男の言葉が脳裏をよぎった。 「……好き勝手言いやがって」  本当に馬鹿なやつだ。運命に愛されてなければあんな男、死よりも酷い絶望にいつ叩き落されてもおかしくなかったのに。幸運の女神はどうやらあいつのことが好きらしい。そして去り際に、諦めたくても諦めきれない俺のことを読んでいくなんて。  好き勝手言いやがって。  もう一度心の中でつぶやいた。  心までは屈服するまいと、性懲りもなくあの男に抵抗し続ける俺の姿を、きっとあいつは見透かして帰って行った。  だが…まあ  もういい。どうせもう二度と会わない相手だ。  どう思われようと、勝手だ。  どう思われたって、俺の生活の一切が変わるわけじゃない。  つっかけただけのブーツで床を蹴り、再び長い廊下を歩いた。奴の気配が近くなるたびに、悪趣味な香りが鼻につく。そういえばまた香水やら煙草やらを変えたとか言っていた。いずれにしても、あいつが気に入ったというだけで全てが悪趣味に感じるのだからどうでもいいことか。 「ふふ、あの子、帰った?」 「…ああ」  あの男が用意した宝石は、珍しく奴の興味を引いているようだ。何がそんなに良いのかわからないが、掌で転がしてその反射を見つめては楽しんでいる。とはいってもどうせ、飽きるまであと数分といったところだろう。それほどまでにコイツは気分屋だし、短気だ。 「そ、じゃあいいや。  ねえアサト、お風呂に入ってきた方がいいんじゃない?この間買ってあげた香油、まだ使ってないし」 「………」  その言葉の意図は嫌になる程わかっている。  返事をするのも億劫で、くるりと踵を返して奴の言う通り、風呂場に向かった。途中俺にと与えられたクローゼットに立ち寄って、そこに収納された悪趣味を形にしたような洋服のうちの一枚を、適当に選んだ。やたらに肌触りが良いせいで、手に取ろうとした瞬間に床に滑り落ちたその布に苛立ちが募って、派手な舌打ちをしてしまう。アイツの思い通りに動いている自分にさえ、腹が立って仕方がない。  そもそもが朝から身体が重くて仕方ないんだ。今に始まったことじゃないが、それもこれもアイツのせい。すべて、アイツのせいだ。  アイツは自分のやりたいことを中断されることが嫌いだ。最初にあの男がここに来たとき、すんなりと俺から手を離してにこやかに対応したことがまず奇跡だなと思っていたくらいだ。同じ展開でこれまで殺された連中の数なんてもう覚えてない。そのあたりからあの男はツキすぎている。しかも今日は時間厳守のあの男の習性に合わせてすらいた。気まぐれとはいえ、あの傍若無人で悪逆非道なクソ野郎にしては紳士的すぎるくらいだ。ほとほとあの男には感心させられる。…それで、その代償に俺は朝から散々食いつくされ、抱き潰されたわけで。 「…クソ…気持悪ィ…」  シャワーの栓をひねって、体中に纏わりついたアイツの匂いを落とす。  いくら毎日のことだからといって、一日の殆どがあの底なし男に身体を貪られているのだから、いたるところにアイツの痕跡が残っている気がして気味が悪い。目に見える歯型も、鬱血の痕も、いくらあの力で消されても、あっという間に新しく描かれるだけだ。きりがない。その不気味な所有印がない肌なぞ、久しく見ていない。  それなのに…  体中を念入りに洗い流して、すっかりと匂いまで消し去ったはずなのに俺の心持は重い。  こういう時は本当に自分が嫌になる。  せっかく一度まっさらにしたというのに、アイツの用意した香油とやらを体にまぶさないといけない。  全く趣味の合わないそれをわざわざ念入りに、自分の手で体に擦り付けていく。なんでこんなことしなきゃいけないんだ。うんざりするとともに感じ慣れた自己嫌悪が沸きあがった。今ではもうこの行為も慣れたもので、全身に塗るまでに数分とかからない。自分のものではないような感触の肌に先ほど選んだ悪趣味な服をひっかけて、おもむろに浴室を出た。  …本当に気持ちが悪い。とびきりに嫌いな行為の1つだ。  ベッドへと向かう足取りが重い。もうわかってる。あと少しの距離、僅かな時間の先にまた、俺はアイツに貪られないといけない。俺が呼吸をしていることくらいもう、あたりまえの未来だ。そこに向かうまでの瞬間も、最中も、終わった時でさえ苦痛でしかないのに…それなのに、こうやってあの男好みの香りを纏わせ、アイツにとって美味そうに見えるように自分をあつらえないといけないことが何より苦痛だ。 「…まるで料理だ」  零れるのは自嘲ばかりだ。嫌になる。反吐が出る。それでも、結局は従ってしまう。  どうせ、あの過ぎた快楽でさえも辛くなるのに、それでもそれ以上の苦痛を与えられないようにといつも逃げてしまう。最終的にはアイツの機嫌を取っておいた方が楽なんだ。だから、アイツに美味しく食べてもらえるように…。 「………」  ため息と共に、天蓋から垂らされた布の隙間を掻き分けてベッドに乗り込む。照明の近くに置かれたクッションに背を預け、あの獣の到着を待つ。  今日はあと、どのくらいの時間をアイツと過ごせばいいんだろうか。何度食われればいい?疲労さえもなかったことにできるあの性質の悪い力を使って、また昼も夜も際限なく繰り返されるんだろうか。それは避けたい。……癪だが、やはりアイツの顔色を窺って、さっさと満足させてしまった方が楽だろうな。  一日の殆どをこんなことばかり考えて過ごしている。 「……喧嘩してえな…外に行きてぇ…」  アイツがいないのをいいことに、ぼそりと呟いた。  俺の唯一の楽しみ……殴りあって、殺し合って…。屈服させて、支配して。  それがしたい。そうすればいくらか気持ちも晴れるのに。  ここ1週間くらいはずっとアイツの相手ばかりで鬱憤が溜まってばかりだ。  次に機会があれば、全部ぶつけてやろう。  本当は今回会ったあの馬鹿な男でもいいからひどく痛めつけて犯してやってもよかったのだが  誤って殺したときの叱責を考えると気が引けたし  なぜかなんとなくできなかった。  …これだから、馬鹿正直な奴は苦手だ。 「ああ、いい香り。やっぱり君にぴったりだったね。よかった」 「……!……ああ…」  薄く透けた布を、さらりと長い爪が裂くように割り開く。隙間から見えた瞳にはもう十分に欲望が満ちていて、背筋がぞわりと震えた。何度見ても慣れない。恐ろしい。もう見慣れてもいいほどあの目で犯されたのに。いや、だからか。苦痛、恥辱、恐怖、そのすべてが俺の中に蓄積されているから。  決して頭が良い方ではないが、いっそ狂ってしまえたら良いのにな。  だがコイツはその限界ギリギリのラインを見極めるのがうまいから、俺は正気を捨てられない。 「その服もいいね、とってもそそるよ。うん……美味しそう」  ギシ、とベッドのスプリングがきしんで音を立てる。  一歩、一歩確実にあの男が近づいて、あの獣のような瞳でじろじろ頭の先からつま先までを視線で嘗め尽くした。心底気持ちが悪いが、とりあえずはこの姿には満足したようだ。露わになった太腿を、奴の指先がもったいつけるように撫で、やがて脚の付け根にたどり着く。 「…っ……」  何が楽しいんだ。こんな…俺みたいなのを飾り立てて、貪って。  自分が美しくないことなど、はるか昔から知っている。それなのに、最悪なことにコイツにとっては俺のすべてが美味そうに見えるらしい。つくづく生まれた時から不運だと思う。視線を上げればこれ見よがしに舌なめずりをする様子が見て取れて、ああ、嫌だ、嫌だ、と言葉にならない嫌悪が溢れた。 「さて、ところでさ……」  腕を引かれ引き寄られたかと思うと、余りに軽々と身体を持ち上げられ、背を奴の胸に預けるように囲われた。すっぽりと覆われるようにその身体に包まれて、逃げ場のない状況に心臓が跳ねた。  これは…そうだ、おそらく、こいつは俺を………叱責するつもりだ。   「ぁ……何…なん、だよ……」  するりと奴の右手が俺の指先を捉えて、小指の付け根を確かめるようになぞっている。恐ろしくて、その場所に視線が釘付けになった。 「君、僕の楽しみの邪魔をしたよね?僕、そんなことをしていいなんて言ってないと思うんだけどなあ」 「……は?…なんのことだよ…俺は、別に…」 「ん?とぼけるの?悪い子だなあ」 「あ゛ッ…!!ぃっ…―――!!!」  くす、と耳元で低い笑い声が響いた瞬間、奴が撫でていた小指に思い切り爪を食い込ませた。長い爪はいとも簡単に皮膚を破って、やすやすと肉を割いていく。ゆるく、錆びた鋸でも引くように何度も押して、引いて、むき出しになった神経を嬲り始めた。 「やめっ…痛…やめてくれ…!何も、何もしてないって!本当だ…!」 「えー?嘘だぁ。君、僕に嘘つくの?悪い子だなあ。もっときついお仕置きが必要なのかな?」 「や、やだ……!違うッ!ほんとにわからない…俺は何も…!」  にちにちと肉と血が混ぜられていく音が聞こえる。やめてくれと懇願するように奴の手を握っても、俺の力ではその行為を止められない。まるで愛撫するように緩やかに肉を裂き、やがてはこつんとその爪が骨に触れた。 「―――――!!!いっ…たい…!痛い!痛い!やめて…頼むから…!!!京介…!!」 「うーん、本当にわからないのかあ。仕方ないなあ。じゃあ、教えてあげる。  ねえ、アサト、僕は君に ヒントをあげていい なんて言ってなかったじゃない?」 「……ぁ……!」 「ヒントあげちゃったらさ、フェアじゃないでしょ?君がそんなことしなかったら、僕はもっと楽しめたかもしれないのに……あーあ、君のせいだよ?」 「や…違…俺は、そんなつもりじゃ……」 「つもりじゃなくても、そうなっちゃったよ、ね?」  やたらに甘く耳元で念を押した瞬間、ぐしゃり、と身体を伝う鈍い衝撃が走った。 「っ……あぁあああッ…!!!!」 「ほら~アサトが悪い子だからだよ?」  骨を砕かれた…!!  いつまでたっても慣れないその痛みで体がぶるぶると震えた。それでも身体を抱きすくめられて逃げられない。首筋に冷や汗が浮かんで、それを奴の舌先がぺろりと拭った。 「ねえ、こういうときってどうするんだっけ?悪い子にはもっとお仕置きが必要かな?どう思う?アサト」 「や…だ、ごめんなさい……ごめんなさい…!!!  俺が、悪かったから……!!も、やめて…痛い……ごめんなさい!  父さん、ごめんなさい…!!  もうしないから…許して…!」 「えー…?本当かなあ?本当に反省してる?」 「ほんと…ほんとに反省してる……!痛いのは…嫌だ…!ごめんなさい…だから…」  砕けた指先を弄んでいた爪が、今度は隣の指に絡みついて軋ませていく。痛い、痛い。このままだとじわじわと両手両足の骨を砕かれる!もっと悪いとそれ以上だ…。これまで幾度となくされたあの折檻が恐ろしくて、ぶるぶると身体の震えが止まらない。  なんでもする、なんでもするから許してほしい。  一番深いところに刻まれた恐怖が、いとも簡単に俺の全てを支配して、屈服させた。  懇願するように涙を浮かべた両目で奴の目を見上げると、その瞳がじっと俺のそれの一番奥を覗いて、それからゆっくりと優しく唇を吸った。 「…ん…そっか、しょうがないなあ……。じゃあアサトの行動でどうするか決めようかな。反省してるなら…態度で示せるはずだよね?」 「………ッ…!!」  こくこくと何度も頷いて、とにかく苦痛から逃げることで精いっぱいだった。問答無用で苦痛を与えられないだけいくらかましだ。どうやら今日は痛めつけるより、快楽を得たい気分なのだろう。いくら最低の状況でも、それだけは救われた。 「…じゃあとりあえず痛いと気が散っちゃうからね」  先ほど砕いた小指を軽く撫でて、そっと右手が奴の口元に添わされる。ぬるり、と熱い舌が肉の裂けた傷口を舐ってから、徐々に指先から奴の口内に招かれていく。口淫を施すように舌先が巻きついて、鋭い痛みが徐々に消えていく。鈍く響くような痛みも、全て。  唾液まみれになった指先を引き抜くころには、すっかりと付けられた傷も、砕かれた骨も元通りになっていた。ほ、と息を付いて、催促するように見下ろす奴の唇に吸い付いた。 「…ん……アサト…かわいいね」  奴の腕が身体に巻き付く。可愛い、なんて形容されてもただただ恐ろしいだけだが、それでも機嫌が悪いわけではないようだから、ほっとした。  じっくり、甘えるように何度も唇を食んで、唾液をぬぐうその舌先を捉える。誘うように口内にひときわ熱く濡れたそれを引き入れれば、より満足そうに唇の隙間から吐息がこぼれた。狭い口内できゅうと締め付けられるのが京介のお気に入りだ。そうやって何度ももてなしてやってから、注がれる唾液を飲み下した。呑み切れなかった分は口の端を辿って胸元まで落ちていく。 「…京介、離して……ここ…舐めたい」  自分でもわかるくらい、砂糖でもまぶしたかってほどにとびっきり甘く言葉を紡ぎながら、そろりと指先で奴の怒張をなぞった。数えきれないほどの情交を経て、奴がどういう時にどうしてほしいかが手に取るようにわかる。掌で強請るように何度もさすり上げると、ごくりと喉を鳴らす音とともに身体を縛っていた両腕がほどかれた。 「いいよ、アサト…。丁寧にしてね」 「…うん…」  嫌だやめろと荒く抵抗するより、今日は従順な態度がお好みなんだろう。子どもを甘やかすように奴の声も甘い。身の毛のよだつ思いだが、こちらも相応に言葉も、雰囲気も作りこんでやれば満足するだろう。苦痛を与えられるのは嫌だ。こういう時に一方的にされる暴力は恐怖でしかない。  解放された体を屈ませて、何度か布越しに愛しいとでもいうかのように奴の欲望に口づけてやってから、慣れた手つきで服を引きはがしていく。  いくら見た目が美しくたって、目の前にさらされた欲望は生々しい雄のそれだ。鼻先が触れるほど顔を近づけて、びくびくと震えるそれの根元に口づける。  ああ、嫌になるな。  暗雲立ち込めるような胸の内と裏腹に、唇はとびっきりに甘く奴に快楽を与えようとしゃぶりつく。ところどころにある金属を舌で揺らして、何度も何度も浮き上がった筋を行き交うようになぞってやれば、切っ先からやがてとろりとした涎を垂らしはじめるものだから、それも全部掬い上げて口内に招いてやった。  口の中に、奴の味が広がる。 「うん…ああ、やっぱり上手だね、アサト。君にしてもらうのが一番気持ちいいなあ…」  吐息混じりの声はすっかりと上機嫌だ。先端くらいしか口の中には入らないが、焦らすように舐めてやるだけで奴には十分だろう。どうせすぐ、こらえ性がなくなるんだ。いつもそうなんだから。誉めるように項を何度も指先で撫でられ、恐怖は少しずつ緩んでいった。  忌々しい。気持ちが悪い。だが恐ろしいよりはましだ。 「ん゛…ッ…!!ぅ…ぐ…」 「あは、ごめんごめん、気持ちよくてつい」  が、気を抜いた瞬間に喉を思い切り突かれて、一瞬呼吸が止まった。ゾクゾクと背筋が粟立って…それなのに…口元からこぼれたのは熱く湿った吐気だった。 「ふふ…あれ?アサト、どうしたのかな?…苦しいんじゃないの?」 「ぅぐ……んン……!」  ああ、嫌だ、本当に嫌だ……自分が嫌になる。  こつん、とその切っ先が喉を突き上げるたびに、背筋が震えて堪らない。ちらと見上げた瞳は愉悦を浮かべながらこちらを見つめていて、頭に添わされた手が逃げることを許してくれない。 「あはは……本当、アサトっていやらしいよねえ。喉を突かれて感じちゃってるんだ…?じゃあもっとしてあげるね」 「ぁ…!ぅあ……!!んッ…!!…――ッ~~~!!!」  ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音を立てて、奴が奔放に口内を嬲ってくる。背筋どころか体中が、そうしたくないのに悦んでしまってどうしようもない。吐きそうなほど気持ちが悪いはずなのに、なんでこんなに…気持ち良いんだ…。  散々口内を堪能され、奴が飽きるころにはもう… 「ねえ、アサト」 「は……ぁ……っ…!」  ずる…と口内から唾液でどろどろになった雄が引き抜かれた。舌も、唇も、全部がしびれて呂律がまわりそうもない。それに、それ以上に…  俺の表情をじっくりと見つめながら、さも楽し気に奴が首を傾げている。 「君の存在意義ってなんだったっけ?」  また、あの質問だ。  奴が…一番好きな問いかけだ。  俺の自尊心を砕くための…  でも、それでも、今は…  ひくついた喉と、甘くしびれる唇を震わせて夢中になって言葉を紡いだ。 「…おれ…は……ッ…!…京介に…抱かれるためだけに……うまれてきました……だから……」  身体が熱い。ひりひりする。  心底嫌なのに、悔しいのに、こんなふうに感じたくないのに、どれだけ心が拒否してももう手遅れだ。  奴に教え込まれた雄の味を期待して、身体の深いところが疼いてしまっている。 「……だから…京介の……ください…。俺の中…思いっきりかき回して……」 「ふふ…よーくできました…」  情けない。辛い。苦しい。  でも……我慢ができない。  あの滅茶苦茶な快楽で殺してほしいとすら思うほどだ。  今はもう正常な思考が働かない。  まるで恋人にするみたいに京介が指と指を絡ませるように手を握ってくる。  促されるままにベッドに背を預けた奴の上に跨って、すっかりと濡れてしまった俺の欲望を奴のそれに擦りつけた。 「さ、いいよ…アサト。欲しいなら、自分でちゃんと挿れないとね…。好きなだけ楽しもうね」 「…ん…、ぁ…あ、ぅうう…ッ…!!!」  くらくらする。  だけどどうすればいいかは体が覚えている。  両手を掴まれていても、腰を揺らしてやればいとも簡単にぬるついたその先端を捉えることができるし、そのまま腰を落とせば俺の胎内に招きいれることができる。 「あ…は……はぁ…、京介……っ…」 「やっぱり上手だね……ほら、腰振ってよ。…早く、我慢できない」 「ッ――!!ああぁッ!!」  掴んだ両手を引っ張られて、ゴツンと奥を突き上げられた。呼吸がとまりそうだ。一瞬で上り詰めそうなほどの快楽が波のように襲ってきて、きゅうきゅうと中が締まる。アイツの熱さが、硬さが、どれだけ深いところにいるのかとか、その全部が如実にわかってしまう。 「アサトってさ…ほんと、中いじめられるの好きだよね…。どこ擦られちゃっても気持ちいいんだもんね?  でも、奥が一番好きなんだっけ?」 「ぅ、あ…あっ……そ…う…だけどっ…!!……待って…そんなされたら…すぐ…!」 「ふふ、いいよ~イっても…。何回でもすればいいんだから。飽きるまで、何回でも…ね」  嫌気が刺す。それなのに、やめられない。  結局、コイツの上で俺は散々腰を振ってしまって、忌々しい快楽を貪った。  やがて俺が動けなくなっても、今度は京介が散々体液で濡れた肉壁を擦り上げて、もう何度達したのかもわからないくらいだ。 「は…―――ああ…、気持ちいい…。やっぱり君は最高だね……。ふふ……次に面白いことが起きるまで、暫くはこのままでも、いいかなあ…」  ぼんやりとする意識の中で、すっかり満足した調子の京介が俺の上で呟いていた。  ああ、結局  どれだけ足掻いても、嘆いても  身体も心も、俺はコイツから逃げられない。  忘れたい現実から逃げるように、両の瞼をおろした。  再び目覚める時には、また、こいつと……

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