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第9話
◇◇
目が覚めた。
窓から差す朝日に目を細めながら、ゆっくりと上半身を起こし、眠い目を擦る。
ーーそこで、ふと気が付いた。
隣で寝ていた筈の臼田の姿が、ない。
もしかして、もう帰ってしまったのだろうか。
ベットから抜け出し、自室から出て、玄関へと向かう。
臼田の靴は……ない。
どうやら、本当に先に帰ったらしい。
きっと、急ぎの用事でもあったのだろう。
少し寂しさを感じながらも、リビングのソファーに座り、何気なくテレビを点ける。
数秒後、暗かったテレビ画面に、ぱっとニュースキャスターらしき人物が映った。
『次のニュースです。…今朝三時ごろ、市内で全焼した乗用車が見つかり、中から三人の遺体が発見されました。亡くなったのは、…』
怖いなあ、なんて呑気に見ていた俺は、次に切り替わった画面を見て、思わず息を飲んだ。
テレビに映る、三人の人の顔写真。
その中の一人は……。
『……三人が乗っていた乗用車の中から練炭が発見されたことから、警察は無理心中ではないかという方向で、捜査を進めていく方針です』
◇◇
今年も、夏がやってきた。
額から流れ落ちる汗を拭いながら、二階の和室へと足を向ける。
ーーあれから二十年が経った。俺は社会人になって、妻と子供二人に囲まれながら、幸せな毎日を送っている。
和室の隅に、ヨーヨーやらお菓子を乗せた紺の浴衣が置いてある。
これは、あいつが置いていったもの。
「…臼田」
その横に、先程花屋で買ってきた向日葵の花を一輪、添える。
ーーこうして居場所をつくって待っていれば、いつかまた、会えるような気がするのだ。
黒目がちの瞳で、じっとこちらを見つめて。
『…秋鷹』
ふわりと笑う、浴衣姿のあいつに。
ふ、と風が、髪を揺らす。
はっと顔を上げればーー視界の端で、紺が揺れた。
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