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盲目の白い花 1
小さい頃のことを、覚えているかと聞かれると僕の答えは何となく、だ。
覚えているのは…なにか白い、大きな物に乗って空を飛んだこと。
それから……
…泣きながら僕の両目に手を伸ばす母親の顔だ。
僕は盲目だ。目が見えない。
原因は、4歳の時に母親に両目を潰されたから。
僕はその時のことをぼんやりとしか覚えていないけれど、僕を保護してくれた孤児院のシスターの話を一度だけ聞いたことがある。
僕の父は、普段は隠していたけれど、見たことのない真っ白な髪に赤い目をしていたらしい。
そして、誰の目から見ても父と母は愛し合っているように見えた。
けれど…父は何故か幼い僕と母を残して失踪してしまった。
愛していた男が突然居なくなり、見捨てられたのだと思った母は次第に父を恨むようになった。
…僕は、父と同じ、白い髪に赤い目をしていた。
自分を見捨てた男をどんなに忘れたくても、僕を見る度に思い出す。
女ひとりで子供を育てるのは決して楽じゃない。
母は一生懸命頑張って、無理をして……
……心を壊してしまった。
父と…愛した男と同じ髪を、同じ瞳を見るのが耐えられなくて、僕の目を…
この時のことは、少しだけ覚えてる。
泣きながら僕の目に両手を伸ばし…何も見えなくなる。
痛くて痛くて…何が何だかわからなくて、泣き叫ぶことしか出来なくて…
「っ?!わ、私は……あぁっ!!ごめんなさいっ!!ごめんなさいレリスッ!!!もうっ、どうしたらいいかわからないのっ……!!」
今思うと…きっと母も無意識に行動に移してしまったんだと思う。
そうでなければ、泣き叫ぶ僕を抱きしめたりしない。謝ったりしない。
自分の子供を傷付けてしまったことに耐えきれなくなったのか、それとも疲れ果てた心が限界を迎えたのか…いや、両方かな。
僕の泣き声に気付いた近くの住人が部屋に入ると…両目から血を流す僕と、自らの首に包丁を宛てがい、自害した母が横たわっていたと言う。
その後僕は今の孤児院に引き取られた。
小さな教会が運営している孤児院だ。
4歳の時にここに来たから…もう12年もここに居る。
本来僕くらいの歳になると、新しい親に引き取られたり、仕事を見つけて出て行ったりするんだけど…僕はこの見た目と目が見えないという理由から引き取り手も仕事も見つからない。
ある程度身の回りのことは自分で出来るし、孤児院での生活に支障はないけれど…正直、この孤児院は金銭的に恵まれているとは言えない。
少ない資金の中で、ギリギリ運営できている状況だ。
沢山の子供を救いたい。けれど、その環境と金銭が足りないのだと嘆いているシスターの話を偶然聞いてしまった。
僕は…この孤児院が好きだ。
独りになって、目が見えなくなった僕を懸命に看病して、声を掛けてくれて…
優しくするだけじゃなく、目が見えなくても生活できるように沢山の事を教えてくれた。
今僕がこうして生きていられるのは、この孤児院のお陰だ。
何か…恩返しが出来たらいいのに…
シスター達はそんなの気にしなくていいと笑うけど、でも、それでも…
「レリスー、お話聞かせてー!」
「私も聞きたい!」
「僕も僕も!!」
「ふふっ、はい。いいですよ。どのお話が良いですか?」
孤児院の子供たちが僕の部屋に入ってくる。
今この孤児院にいる中で一番年上の僕はよくこうして子供たちに物語などを話して聞かせている。
…といっても、僕がシスターに聞いたのをそのまま話しているだけだけれど。
「お姫様のお話が良い!」
「えぇー、僕は騎士のお話が聞きたい!」
「では、順番にしましょうか。この前はお姫様のお話だったので、今日は騎士のお話から」
「「はーい!」」
素直で、元気な子供たち。
皆それぞれに此処に来る理由があって、過去を抱えている。
この場所が無くなれば、この子達を守ることも出来ない。
もし、本当に神がいるのなら…どうか、この子達を守る術を与えて欲しい。
それが、僕の今の一番の願いだ。
そしてその願いが、この後叶えられることになるのをこの時はまだ知らなかった。
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