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転勤
入社後、それなりに仕事を必死でこなして3年。
俺に転勤の話が出るとは。
最低でも地方で5年揉まれてから、本社勤務になると聞いていたのに。
えらく急な話だ。
まぁ、俺の仕事振りなら当然の話か。
それにしても本人への通知より先に張り出すなんて。
池本 大輔 は、掲示板に貼られた辞令を見つめて大きく息を吐いた。
彼は10分程前に支店長に呼ばれ、転勤を言い渡されたばかりだ。
そして、本人が席を外している間に、サッサと掲示された辞令を巡ってあちこちで大騒ぎになっていたのだった。
先日25才の誕生日を迎えた大輔は、身長182㎝で、学生時代水泳をやっていたその身体は、肩を壊してその道から遠ざかってからも美しい筋肉を纏い、オマケにいわゆるイケメンと言われる顔立ちで、多くの女子社員からロックオンされていた。
そんな彼の突然の転勤に社内に激震が走っていたのだった。
「おい、池本!お前凄いじゃん!
まぁ、うちのルーキーなら当然だよな。
あっちに行っても頑張れよ!」
通りすがりにバシッと肩を叩いてくるのは、先輩の伊吹。
「はぁ…短い間でしたけどお世話になりました。
ありがとうございました!」
センチになるほどの愛着もなく、もうこれで、断っても蹴り倒しても言い寄ってくるケバい女達の相手をしなくてすむことに安堵していた。
が…案の定、部屋に戻るなり取り囲まれた。
「池本くぅーん、本当に行っちゃうのぉ?」
「ヤダァ…ね、今夜飲みに行こう?」
「プライベートの連絡先教えて」
厚かましくボディタッチをしてくるその手をやんわりと振りほどき、満面の笑みで言い放った。
「これでやっと結婚秒読みのかわいい恋人と暮らせますよ。
皆さん、お世話になりありがとうございました!」
そんな女、いやしないけれど。
瞬間凍りつくような空気を意に介さず、その場を後にして部長の前に立つ。
「先程辞令をいただきました。
短い間でしたがお世話になりありがとうございました。」
「うん、君なら…と思って推薦したんだ。
慣れるまで大変だろうが、頑張れよ。
…俺よりキレる上司が待ってるからな。
まぁ、鍛えてもらえ。」
え…“キレる上司”!?
一抹の不安を抱えながら、引き継ぎと引越しとあらゆる手続きを嵐のような1週間で済ませ、俺は新幹線の車中で、新天地での生活に思いを馳せていた。
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