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対面
はあっ…デカイな…
自社ビルの前に立ち、見上げてそう思った。
遠くからでも目立つその建物に人が吸い込まれていく。
よしっ と気合を入れて、社員証のバーコードを通すと、慣れた風を装いエレベーターに乗り込んだ。
「あっ!ちょっと待って!すみません!」
目の前に滑り込んできた細身の男性。
俺より頭一つ分小さい。
「ごめんなさいね。」
と周囲に謝罪するその柔らかなトーンが心地いい。
この人の声、好きだな…
ふわりと香るこれは…俺と同じプー◯オム。
相手もそれに気付いたのか、振り向いたその顔に何故かどきっとした。
美人…
トクトクと動悸が激しくなってきた。
かちりと合った視線が外せない。
何でだ???
相手も…俺から視線をズラそうともせず真っ直ぐに見ていた。
そうやって目当ての階に着くまでの10数秒、見つめ合っていた。
え?この人も同じフロア?
押し出されるように降りると、くるりと半身を翻し突然声を掛けられた。
「池本大輔君?」
「はっ、はいっ!」
「課長の白瀬 暁人 です。
ようこそ第1営業部へ。」
「…あっ、未熟者ですが、よろしくお願い致しますっ!」
「顔合わせするから…さ、入って。
おーい!みんな揃ってる?」
「課長!長谷部がまだでーす!」
「またか…アイツ抜きで始めようか…」
こうして俺は、本社の第1営業部の一員となり、慣れるまで白瀬課長の直属で働くこととなった。
なんだ。
きっと履歴書で俺の写真を見て、『今日から配属になる奴はコイツだ』と値踏みしてたんだな。
それにしても…綺麗だ。絶対にモテるはず。
一見女性のような愛らしい顔立ちに、細い猫っ毛の髪は日に透けて所々ブルーに見える。
物腰も柔らかく言葉遣いも丁寧。
仕事もできる。
数時間一緒に回るだけですぐに分かった。
薬指…指輪はない、ということは独身か。
「…池本。」
「はいっ。」
「…俺の品定めは終わったか?」
「は?」
「人のことジロジロ見てる暇があったら仕事覚えろ。」
「へ?すっ、すみませんっ、そんなつもりは」
不躾に見てたのか…一応素直に謝ると
「…慣れてるから、もう、いいや。昼飯にしよう。
今日は俺が奢ってやるから。」
『慣れてる』って何だよ…引っ掛かるな。
それでも素直にご馳走になり、たらふく食べて満足気な俺に
「見事な食べっぷり」
と微笑む顔にどきっとした。
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