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新しい神
冷たい石畳に一粒の雨粒が落ちる。それはゆっくりと姿を変えると、金色の尾を持った狐に生:(な)った。
狐がぐんと伸びをすると、今度は美しい少年へと姿を変える。白磁のような肌、長く縁取られた金色の睫毛の奥にはまだ世界を知らない純粋な瞳が輝いている。
まつげと同じ色の髪は長く滑らかで、そこから生えた大きな耳が探るようにぴくぴくと動かされた。
「む、思ったより上手くできたではないか」
ふと聞こえた声に少年は周囲を見渡してみるが、そこには誰もいない。
「だ、だれ……?」
少年はかすれた声でそう尋ねる。すると、風がひとつ吹いて真っ黒な鬼が現れた。その姿は醜く、きっと普通の人間であれば気絶をするか、逃げ出していただろう。
しかし、たった今生まれたばかりの少年は、不思議そうに黒い鬼を見つめた。
「儂は黒鬼。 お前の監視役を任された……鬼、だ。 そうそう、お前の名前を御上から預かっている。 お前の名は朽葉だ。 哀れな名だとは思うが、儂にはどうにもできんし、朽ちていくだけの村の守り神には適当な名だと思うぞ」
そう言うと黒鬼は口端を思わずと言ったように吊り上げた。
「くち、は……?」
自分の名だというものを繰り返してみれば、それはなんだか身に馴染んでいった。
「では、儂はもう戻らねばならん」
「えっ……でも」
まだ生まれたばかりの朽葉には何もわからない。与えられたのは広大な土地と身体と名前だけ。
「言っただろう、お前は守り神だ。 儂が教えんでも勝手にわかるようになる。 それにな、儂はただの鬼故、必要以上にお前に近づくことができんのだ。 大丈夫、今はひとりかもしれんが、そのうち誰かしらが来てお前はひとりではなくなる。 なんせ守り神だからなぁ、その尾が九つになる頃にはきっと……」
そう言い終わるか言い終わらないうちに、黒鬼消えてしまう。
冷たい石畳の上で朽葉は困ったように周囲を見渡した。
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