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第4話 地下鉄の王子

ガクッと電車が揺れた瞬間、頭に衝撃がきて思わず手を当てた。 床にはスマホが落ちていた。イッテぇ……。見上げると赤い顔をしたあの子がいた。 これが魔法使いの弟子の仕業か?! 俺は毎日地下鉄で通勤する。同じ車両に乗る彼に気づいたのはいつからだっけ? 切れ長の目と漫画みたいにオデコから鼻にクロスしてかかる前髪。制服の着こなしも崩しながらも品がある。どこの制服だろう、高校生ということだけはわかるけど。 心の中で「王子」と呼んでいるのは、まぁそんな雰囲気を醸し出してるからだ。 昨日は空いてて向かい合わせに座ることができた。スマホをずっといじっているのは電車の中ではありふれた事だけど、彼女と朝のメッセージのやりとりでもしてるのかなとか、動画見てるのかなとか気になって仕方ない。 気になるのはその子の見た目が俺好みだからだけじゃない。おばあさんに席を譲って、優しく楽しげに会話してるその声を聞いてどうしても話してみたい衝動にかられてしまったからなんだ。 でも、俺が席を譲ったり譲られたりなんてありえないからね。 ささやかな楽しみの通勤電車。毎日こっそり、少し離れて見つめる俺の通じるはずのない願い。そんな願いを聞いてくれるという魔法使いの弟子に声をかけられて全く信じてなかったけど練習台として魔法をかけてもらった。 「すみません!あのっ、すごい音したんですけど大丈夫ですか?!」 「あ、いや……大丈夫だけど……」 俺はもう一度聞きたくて、ずっと頭の中で思い出そうと頑張ってた彼の声に力がぬけそうだ。やっぱいい声。 「大丈夫じゃなさそうですね、降りましょう」 ちょうど止まった駅で促され立ち上がると彼は暖かく大きな手で俺の背中を押しながらベンチに座らせた。 「冷やしますか?病院とか…」 「いや、大丈夫だから、気にしないで。ちょっとコブになったくらい?かな」 俺は頭を触りながらあのスマホが落ちた時の画面を思い出した。あの写真……。 「さっきスマホ落とした時……何みてたの?」 「えっ、あーえーとなんだったっけ? あ、ウェブ写真集です。最近見つけてよく見てるんです、すごく綺麗ですよね。見ます?」 そう言って座る俺に正面から差し出したスマホには、俺が撮った写真が大きく映っていた。 「それ、俺が出した写真集」 「え……」 「趣味で撮りためたのを出したんだ。ビックリした、身近に見てくれる人がいたなんて」 俺は嬉しくて彼の手ごと掴んでスマホの画面を見つめた。 手を掴まれた彼は固まったまま俯いた。なぜか耳まで赤い。 「あ、悪い、いきなり掴んで」 「あ、いや、えっと……」 何か言いたげだけど顔を横に向け視線を動かしながら耳まで真っ赤にして言葉を探しているようだ。そんな姿を見ることができるだけで今日は最高だ!仕事行くのやめようかな、この瞬間の記憶が仕事で消されるなんてもったいない。 「あの、写真の撮り方教えてください。時々カメラ持ってますよね、今日もだけど。僕も写真撮ってみたい。ヤバイ、そんな人だったなんて知らなかった。いつも気になってて、カッコいいなぁって……あ、カッコいいって、あ、あ、カメラ持っててあの……」 俯きうろたえる姿を見ながら思わず 「今から写真撮りにいくか」 とつい言ってしまった。 「行く!行きます、学校は今日文化祭の片付けみたいなもんだから行かなくていいから!」 ごめん、俺には下心があるけどね。 魔法使いの弟子くんよ、キッカケをありがとう! そんな顔は見せないようクールを装って、次の電車を待つために彼の手を掴んで隣に座らせた。 [終]

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