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鹿住の場合
「あっつ~!! なにこの部屋!? エアコンは!?」
牛尾 の部屋に入るなり、鹿住 は叫んだ。
「……壊れてるって、昨日言っただろ」
「もう修理呼んだと思ったんだよ~」
「アホ。8月の電気屋は忙しんだよ。エアコン修理なんて二週間待ちじゃ」
牛尾と鹿住は大学が一緒で、ダラダラとしょっちゅう連んでいる仲だ。
鹿住の家とバイト先の間に牛尾の住んでいるマンションがあるので、鹿住はバイト帰りに牛尾の部屋に涼みに寄るのが習慣になっていた。
だがら牛尾の部屋のエアコンは壊れていて、当てが外れてしまった。
「マジかよ~! あ~もぅ、蒸し風呂じゃんか 」
「窓開けて扇風機でどうにか生きてんだよ。てゆうか、文句言うなら帰れよ」
「え~……牛尾、アイスちょーだい」
「ほれ」
「ありがと」
牛尾がくれたのはバニラの棒アイスで、前に鹿住が「懐かしい! 小学生のとき、これ好きだったんだ~」と、はしゃいで以来、牛尾の部屋の冷凍庫に常備されている。
鹿住は袋を破く前にアイスをうなじに当てた。ひんやりして気持ちいい。
「溶けちまうぞ」
牛尾は扇風機の風を鹿住の方に向けて、「アホか」と呆れたような顔をした。
鹿住は袋から出したアイスを咥えながら、ちらっと牛尾を見る。
牛尾はタオルを頭に巻き、上半身裸でハーフパンツを履いただけだった。
(やっぱ、かっこいいよな~。筋肉あってイケメンで)
鹿住は自分の細身で白くて、ヒョロっとした体がコンプレックスだった。
牛尾は鹿住の理想が服を着て歩いてるようなもので、鹿住はついつい牛尾を見てしまう。
大学で牛尾から声をかけられ友達になったことは嬉しかったし、一緒にいると楽しかった。
(いいな~。俺もこんな肉体美だったらなぁ。 羨ましい)
チラチラと盗み見していたら、ボタっと溶けたアイスがTシャツに落ちた。
「あ───っ!! 牛尾! なんか拭くもんちょうだい!」
「ドジだな。ああ、もう脱いじまえ」
牛尾は鹿住のTシャツに手をかける。
鹿住はギョッとして抵抗した。だって理想の肉体美の牛尾の前で貧弱な己の体を晒したくはなかったのだ。
「いいって! いいってば! タオルかしてく……!?」
───ドサッ!
鹿住がアワアワと抵抗したせいで、バランスを崩した二人はフローリングの床にもつれ合うように倒れた。
バニラバーがちゅるーんと床を滑っていった。
「わ! ごめん、牛尾。床拭くし、タオルちょうだい」
鹿住はバツが悪そうな顔で牛尾を見上げると、牛尾はいつになく真剣な顔をしていた。
「牛尾?」
ポタリと、牛尾の汗が鹿住の頬に滴り落ちる。
ただでさえ暑い部屋の中。揉み合ったことで牛尾は更に汗だくになっていた。
汗が伝うしなやかな筋肉に、鹿住はつい目がいってしまう。男の色気の塊、フェロモンの大売り出しみたいだ。
「かすみ……」
名前を呼ぶ牛尾の声は少し掠れていて、今まで聞いたことのないセクシーな響きだった。
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