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第6話 それぞれの行き先

 流れるピアノの音に耳を澄ませ、多衣良の細長いしなやかな指の動きを目で追う。 「隼人さんの部屋にまた遊びに行くね」 「いや、来るな。俺の身が危険だ」 「またうるさくて眠れない夜があるかもしれないじゃん」 「遠慮するわ。来年には引っ越す予定だし」 「引っ越し、なんで?」 「もう一回、教員試験受けるから」 「え、教師になるの?」 「まあ、給料も今よりマシだし」 「隼人さん、先生できるの?ていうか結局最後まで僕にピアノも教えてくれなかったじゃん」 「本気で教えてもらおうとしているお前がどうかしてんだよ」    俺はあいつが部屋に残していった大量のジャズ参考本を片付けていた。 年の瀬になり、家庭教師の仕事もひとまず休業だ。  気づけばサボは無口なサボテンに戻っていた。 もうあの憎まれ口が聞けないのも少し寂しい。 西日が四角の部屋をオレンジに染める。 夕方この部屋にいるなんて久しぶりだ。光に思わず目を細める。  いい加減、来年こそはカーテンを買わなければ。                           ***** fin ****

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