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第25話

「………やっと、気付いた……?」 食い入るように見つめていた瞳を細める白川。その目の前を、ゆらゆらと黄緑色の光が揺れ動く。 ゆっくりと。光っては消え、消えては光りながら。 まるで、白川に取り憑いた……人魂のように。 スッ、と静かに立ち上がる白川。 その瞬間。一斉に舞い上がる、無数の蛍。 辺り一帯が黄緑色の蛍光色に包まれ、幻想的で美しく、しかし何処か物寂しさを感じてしまう。 この真っ暗な闇を取り払う筈の小さな光が、かえって見えない闇の色を濃くしているようで。 甚平の乱れを直す白川の周りに、蛍が集まっていく。 白い肌に宿る、儚くも眩い黄緑色の光。 その姿はまるで──人ならぬ、物の怪のよう。 「……!」 それに気を取られていると、端正な薄灰色の眼が此方を見下ろす。 酷く、冷たい……無機質な眼。 白川の、細くて白い手が、指の隙間のない状態で胸の前に構えられる。 ……ひら、ひら。 ゆっくりと、上下に揺れる指先。 おいで……おいで…… 「……」 じっとり汗ばむ肌。 薄手のシャツが、べったりと肌に貼り付いて……気持ち悪い。 息を飲み、ゆっくりと立ち上がる。 それを見届けた白川は、僕に背中を向け、音も無くあぜ道を歩いていく。 導かれるように舞う、無数の蛍。 「……」 ぼぅ、っと妖しく光る白川。その後を追う。 ヒヤッとする汗。ぐっしょりと張り付くシャツ。胸元辺りを掴み、パタパタと動かして気休め程度の風を送り込む。 一体、何処へ連れて行こうというんだろう。 その目的は解らない。 心に広がる深い闇と恐怖に、僕自身が飲み込まれてしまいそうになる。 はぁ、はぁ、はぁ…… 息苦しさで、頭がクラクラする。 手足が痺れ、力が抜け落ち。 脳に鋭い痛みが走った後──視界の先に映る白色がぐにゃりと歪んで丸くなり、強い陽光の如く、僕の開いた両眼に飛び込む。 瞬間── ミーンミンミン…… 照り付ける陽射し。 汗ばむ身体。 突然の眩しさに、思わず閉じてしまった瞼を、ゆっくりと開ける。 ミーンミンミン…… 何処までも明るい蒼空。 白く大きな入道雲。 ここは……何処だ…… 「……」 辺りを見回せば、そこは隣町にある寂れた駅前。 張り出した屋根の下にあるベンチ。その一番端──半分日の当たる場所に座り、空を仰いでいだまま眠っていたらしい。 「……、」 それじゃあ…… 今までのは、全部……夢……?

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