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第29話

二人が、学校を出る。 教師の隣で背中を丸め、何処か怯えるようにして歩く白川。 その直ぐ脇に張り付いて歩くものの、やはり、僕の姿は見えないらしい。 道中、物陰に白川を一人残し、教師が弁当屋でからあげ弁当を二つ買う。 買い物袋をぶら下げ白川の元へ戻ると、人目を避けるように、二人は夜のあけぼの自然公園へと向かった。 「……こんな食事で、すまないね」 「そんな、こと……」 広場のベンチに横並びに座り、お弁当の蓋を開ける。 唐揚げの、にんにく醤油と揚げ油、そして金平牛蒡の甘辛い醤油の匂い。 割った割り箸を持ったまま、白川が手の甲で目元を拭う。 「本当は、凄く怖かったんです。……こんな僕が、ここに戻ってきても、いいのかなって」 「……」 「だから、以前と変わらない先生に……ちょっと、ホッとしちゃって……」 背中を丸め、小さく縮こまりながら鼻を啜る白川の頭に、教師の手がそっと置かれる。 「君は紛れもなく、被害者だ。何も恥じる事は無い」 「……」 「ただ、ここに住んでいる人達は……そう思える余裕が、少し足りないだけだ。 ……人間は、臆病な生き物だからね」 「……!」 教師の言葉に、白川が顔を上げる。 涙を溜めたその瞳は、まるで小動物のように潤んでいて。……思わず守ってあげたくなってしまう程、可愛い。 「それじゃあ……小山内先生もそう思ったから、手紙を下さったんですよね。きっと」 「……」 表情が和らぎ、少しはにかみながら俯く白川。 その様子に、教師の顔が少しだけ強張る。 「あんな父だったから。 だから多分、僕を救ってくれた小山内先生を……心の拠り所にしてしまっただけなのかもしれません」 「……」 「あんな事があって。……父からも、この村からも解放されると思ったら、正直、ホッとしました。 けど、もう二度と、小山内先生と会えなくなるんだって思ったら……凄く辛くて」 「……」 「だから……先生に、僕の思いを一方的に告げて……逃げたんです」 「……」 教師の手が、白川から離れる。 それに気付いた白川が、教師の顔色を窺うようにチラと盗み見る。 「………やっぱり、変ですよね。 おかしいのかな……僕」 「そんな事は、ないよ」 前屈みになり、まだ提灯のない建設中の祭り櫓を見つめながら、教師が溜め息をつく。

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