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第38話

「……ほら、口を開けてごらん」 溶けかかった、鮮やかな赤色のかき氷。ステンレス製のスプーンで掬い、ぐったりとした白川の下唇に押し当てる。 薄く目を開け、僅かに開いた唇の間に、それが細く流し込まれる。 これは……飼育だ。 思い通りに飼い慣らす為の、飼育。 本当に白川を想っているなら、こんな事をしている場合じゃない。今すぐ病院に連れて行って、処置して貰うべきだ。 でも、そうしないのは……監禁している事が、バレたくないからなんだろう。 「……」 こんなに苦しんでるのに。 自分の欲望を優先して、白川の事なんて……何も考えてない。 このままじゃ……白川が死ぬ。 死んでしまう。 ……そんなんで、いいのかよ……! 口端から溢れる、薄い赤の水色(すいしょく)。それが、ハンドタオルで拭われる。 「冷たくて、気持ちいいだろう?」 「……」 「……ひかる」 白川を抱き抱える教師が、嬉しそうに顔を覗き込みながら話し掛ける。 甘え付くような、猫なで声で。 「他に何か、欲しいものはないかい? 光の為なら何だって買ってやるし、何だって用意してあげるよ……」 「……、ぃ」 「え、……もう一度言ってごらん」 微かに動く唇に、教師の片耳が近付く。 「……ぉさ……ぃ、せ、んせ……に…… ぁ、せ……て、………」 ──小山内! か細い声なのに。ハッキリと、僕の耳にも届く。 それ程までに、小山内を想っているのだと思ったら……胸が張り裂けそうな程、苦しくて。 この身を引き裂かれるよりも辛い感情が、僕の内側から溢れて止まらない。 「……」 こんな、地獄のような場所で。何度も何度も理不尽に苦しめられて。 それでも……決して希望を捨てない白川を、ここから助けてやりたい。 鬼畜な教師を突き飛ばして、白川を抱き抱えて…… 小山内の所へ、連れて行ってやりたい──! 「何故だ!!」 コン、──カラカラン……、 強く投げられたステンレス製のスプーンが、鈍い音を立て、床を跳ね上がり、壁際まで吹っ飛ぶ。 「君は、……僕というものがありながら……」 「………なら……殺、して……」 酷く、掠れた声。 閉じた瞳の際から、涙が一筋流れ落ちる。 「僕、を……殺して……」 「………な、何を言うんだ……光!」 張り付いているんだろう喉を、懸命な呼吸で剥がしながら、震える声を絞り出す。 「そしたら、……いいよ。 この身体ごと、全部……先生、に……あげる……」 「……な、にを……」 「先生の………好きに、して……」 「………やめろ、!!」 囈言のように呟く白川を床に押し付け、教師が上から覗き込む。 「そんな事は、許さないよ。……君はもう、僕の妻なんだから……!」

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