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第44話
「君を助けるには、実力行使しかない。
しかし、一人で立ち向かえなかった僕は……小山内を利用するしかなかった」
家庭訪問だと偽り、小山内を連れて黒川の家を訪れる溝口。虎の威を狩るものの、それでもチャイムを押す指が小刻みに震えた。
「玄関口に出てきた黒川は、夏場だとはいえ服を着ておらず。加えて、おかしな目付きをしていたから……嫌な予感がしたんだよ。
直ぐに小山内と部屋に乗り込み、そこで見た光景は──」
「……」
カーテンを閉め切った、蒸し暑い部屋。
静寂を保ったエアコン。忙しなく稼働する首振り扇風機。
その傍で横たわっていた──全裸の、光。
「君が……白くて美しい裸体の君が……
精液に塗れ……ぼんやりと天井を見つめている姿だった──」
異常な光景を目の当たりにした小山内が、黒川を捕まえ、床に捩じ伏せる。
その間溝口は、警察に連絡しながら、壊れた瞳をした光の身体を白いシーツで覆う。
「……それから、ずっと……
君を安心させようと……抱き締めていた」
「……」
鼻を啜る音。
苦しそうに、上擦った声。
「……今、思い出しても……惨い。
酷い現場だった……
黒川は……覚せい剤を使用していて……幻覚を、見ていたんだ」
「……」
「まともじゃない。──君が、真奈ちゃんだと……思い込んでいたのだから」
「……、」
壮絶な内容に、絶句する。
僕には……実の父親がいないから、解らないけど。
肉親から性的関係を強要された時の、白川の気持ちを思うと………
「全てが終わった──筈だった。
黒川が捕まり、小山内の腕っぷしを必要としなくなった筈の君は……相変わらず小山内に夢中だった」
「……」
その後、一時保護された光は、真奈の葬式で初めて会った遠い親戚の家に引き取られる事になった。
校舎裏で小山内と落ち合った光は、ありったけの勇気を振り絞り──
「『僕を、先生の家族にして下さい』──小山内に、そう言ってたよね。
あれは、どう考えても、プロポーズの言葉だ」
「……」
「『ケイくんの傍にいる』と言った時の君は……何処へ行ってしまったんだ。
僕が好きになった光くんは、一体何処に居るんだ──!!」
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