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第43話

「君の父親である黒川に、この事実を伝えよう。……そう、思った。 小山内から君を守る為には、それしかない、と」 そこに、溝口先生の赤い刻印があるのだろうか。 愛おしそうに撫でながら、白川に顔を近付ける。 「その頃の黒川先輩は、酷いものだった。 真奈ちゃんが居なくなってから、派手に遊び回るようになり。金が底をつくと、闇金にまで手を出す始末。 取り立てが来る度に、ATM代わりに僕を……アパートに呼びつけていた」 「……」 「強面の男に利息を払い続けたのは、怖かったからだけじゃない。その資金繰りに、光が利用されるのを防ぐ為だ。 ……真奈ちゃんの時のように」 光に手を出した小山内を脅し、慰謝料を払わせ続ければいい── そう提案しようと決心した溝口は、黒川のアパートへと向かった。 「道中、ビニール袋を下げサンダルを突っ掛けた黒川が、コンビニから出て来る所を見掛け……思わず隠れてしまった。声を掛けるタイミングを失ってしまった僕は、そのまま後を付け──見てしまった」 黒川の自宅アパートまで後を付けた溝口は、ピンポンを鳴らしドア前に立つ黒川の姿を物陰からじっと見張った。 暫くしてドアが開き、中から顔を出した光の首根っこに腕を絡ませ…… 「……嫌がる君に、キスを──!」 先生が、言葉を詰まらせる。 悔しそうに。顔を歪めながら。 「その時、悟ったんだ。……君が、置かれていた状況を。虚ろな表情を浮かべていた理由も」 「……」 「黒川は、真奈ちゃんを失った悲しみを……君で埋めていた──」 先生の手のひらが、白川の頬を包み込む。思い詰めたように重ねられる、額と額。 「……助けてやりたい! 黒川先輩の呪縛から。地獄のような環境から。 君が僕を救ってくれたように。……僕も、君を。 そう思って、何度も話をつけようとした。 ……でも、出来なかった。 怖かったんだ。僕に威嚇してくる黒川が──堪らなく怖かったんだ!」 「……」 思い詰めたように発せられた声が震え、やがて啜り泣きに変わる。 震える肩。頬に当てられた手が、白川の横髪を不器用に梳く。 「……それで、思い知らされたよ。 今の光くんが求めていたのは……黒川に虐げられてきた、弱い僕じゃない。黒川より腕力があり、守ってくれそうな……小山内だったんだって──」

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