56 / 71

第56話

散らばっていた欠片(パーツ)が、全て繫がった瞬間──視界が涙で滲んでいく。 胸の奥にある、繊細で柔らかな部分が深く抉られ…… 息も、出来ない── 夏祭りの夜──僕を小屋へと導き、そこで遭った二十年前の惨劇を見せたのは……事件の真相を伝え、小山内先生への想いを僕に託そうとしていたからだと、思っていた。 ……でも、そうじゃ無かった。 何て浅はかだったんだ、僕は。 死しても尚、身体を思い通りにされる光景を……誰かに見られたいと思う訳、ないじゃないか。 あの時の情景が脳裏に蘇り、全身から血の気が引いていく。 蒸し風呂のように、暑い部屋。 肌に纏わり付く、汗。 荒い、息遣い。 鼻を刺激する、腐敗臭。 そこに混じる、精子の臭い。 淡い月光に照らし出された、奇行の数々── あそこまで僕に見せたのは…… 僕が、(いず)れ辿るであろう未来を案じて、警告したかっただけ。 ただ、それだけ── 「……」 どうしよう。 震えが……止まらない。 何も知らず……もし、あのまま溝口先生と親密な関係を続けていたとしたら…… きっと僕も、黒川くん達のように襲われて…… なのに、僕は── 黒川くんに、酷い事をしてしまった。 何の確証もなく、千明先輩の話を鵜呑みにして…… その上、溝口先生に素っ気なくされたってだけで……押し倒して、首を…… この手で── 「んじァ………次は、お前の番だ」 直ぐ隣から手が伸び、二の腕を掴まれてハッと我に返る。 見れば、ニヤついた狐目が僕を間近に捕らえ、じっと見据えていた。 「これだけの情報を教えてやったんだ。……俺の質問には、全て正直に答えろよ」 「……」 何処から取り出してきたんだろう。僕の目の前に小型のボイスレコーダーを掲げて見せると、録音ボタンを押し、静かにテーブルの上に置く。 脅しともとれる、言葉の圧。 録音を示す、点灯した赤いランプ。 視界いっぱいに映るそれに、もう後戻り出来ないと言われているようで……身体に緊張が走る。 「夏祭り当日の行動に関して、不可解な点が幾つかある」 「……」 これから、尋問が始まる。 僕の心情など、お構いなしに。

ともだちにシェアしよう!