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第64話
──ピンポーン
段ボールに荷物を詰め込んでいると、突然のチャイムに肩が大きく跳ね上がる。
8月の初頭に発覚した事件は、三週間もすれば一面トップ記事からその姿は消えていた。
DNA鑑定の結果、白川光音の腸内から発見された精液が、溝口先生のものだと判定され、事件の約二週間後に逮捕されると……残りの被害者達についての供述を始め、再逮捕に至った。
次第に真相が明らかとなり、事件が終息する頃には、報道自体の熱が収まってきたんだろう。それまでこの村に押し掛けていたジャーナリスト達の姿は、殆ど見掛けなくなった。
でも……それでもまだ、チャイムの音には敏感になっていて。未だその恐怖は拭えない。
「……はい」
恐る恐るインターフォンの画面を確認すれば、そこに映っていたのは──小山内先生。
*
舞い込んだ風が、少しだけ肌寒い。
空を見上げてみれば、綿を千切ったような雲が、綺麗な茜色に染まっていた。
リーン、リーン、コロコロコロ……
何処からともなく聞こえてくる、鈴虫やコオロギの鳴き声。
昼間はまだ、夏を感じさせる蝉の音や暑さが残っているというのに。日が沈む頃になると途端に空気が変わり、すっかり秋めいた様相に変わっている。
「役場から預かってきた、必要書類だ」
「……」
「それと……」
ビジネスバックから、大きな封筒と共に取り出される、紙製の手提げバッグ。
「これを丸山に渡して欲しいと、麻生達に頼まれてな」
「……ぇ」
驚いて先生を見れば、むさ苦しいながらも穏やかな笑顔を僕に見せる。
袋を受け取り中を覗き込めば……そこにあったのは、メッセージが書かれた色紙と、手紙の束。
「麻生さん、……もう学校に、来てるんですね」
未遂だったとはいえ……見ず知らずの男に襲われたんだ。
その上、被害届を出した事により、きっと僕よりも沢山の事情聴取を受け、マスコミにも追い掛けられた筈──
「……ああ。まだ心に傷が残っていて、精神科に通院しているようだが……
一連の報道を見て、お前の助けになりたいと思ったらしい。始業式の翌日から、学校に顔を出すようになってな……」
「……」
麻生さんが……僕の、助けに……?
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