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第63話
だけど警察は、コンドーム等を使って上手くやれば、精液 を残す事無く犯行する事は可能だと、簡単に覆してしまった。
あの日──警察が駆け付けた時、僕は小屋へと繋がる道の入口付近に倒れ、意識を失っていたらしい。横峰の言っていた通り、後ろ手で両手首を縛られた状態で。
小屋に監禁されていた僕が、自力で逃げた……と考えるのが、妥当とされた。
「……」
確かに僕は、白川の遺体を見た後の記憶が殆どない。
どうやって小屋から脱出したのか。誰が警察に通報したのか。
二人の警察官に連行された時、自分がどんな格好をしていたのか……
……だから、本当はよく解らない。
精神科医の言う通り、犯行中……或いはその前から、精神崩壊していたのかもしれない。
でも、もしそれを僕が認めてしまったとしたら……
一体母は、どうなってしまうんだろう。
二次被害を受けたのは、何も僕と母だけではない。
加害者である溝口先生は勿論のこと。黒川光も。白川光音も。その他の被害者達も。残されたその家族も、全部……
みんな同じように、マスメディアによって全てを暴き出され、コメンテーターからテレビを通じて辛辣に叩かれ、世間のいい晒し者にされた。
……まるで、公開処刑のように。
確かに、悪いのは殺人を犯した溝口先生だ。
未成年の少年に手を出す行為に、世間から非難され、嫌悪を抱かれても仕方がない。
だけど……
そこに至るまでの間、誰も先生に手を差し伸べなかったのだろうか。
異変に気付いてやれなかったのだろうか。
「……」
人との繫がりって、何だろう。
結束力って。人間関係って。
同じ志を持つ物同士を仲間と認め、それ以外を排除するのは、世の常であるというのか。
もしそうなら、マジョリティな人間ばかりが胸を張って堂々と生き、マイノリティな人間は、劣等感を抱えながら隠れるように生きていかなければならない事になる。
だから、仮面を被る。
僕は、私は、マジョリティな人間だと。
そうしなければ……
この世に『居場所』なんて、簡単に無くなってしまう。
公開処刑なんてされたら……
逃げる場所なんて──何処にもなくなってしまうのだから。
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