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第62話 爪痕

《次のニュースです。 ××村で起きた、中学生監禁暴行殺人の容疑者、溝口啓造が逮捕されました》 眩いフラッシュ。 報道陣が詰めかける中、ビニール製の青い護送用パーカーを被った先生が、警察に連行された時の映像が流れる。 その度に、事件の概要と被害者数人の名前と顔写真が次々と映り、その中に……唯一の生存者である僕の名前と、幼い頃の写真が映し出される。 大体この後は、決まって近所に住む人やPTA関係者からのインタビューが流れ、マスコミが食い付きそうな、無責任な事ばかりを口にする。顔を隠し、音声を変え。自分が誰なのか、全国の人達にバレないよう、安全がほぼ保証された状態で。 「……」 そのせいで、マスコミは過熱。取材陣が自宅にまで押し寄せ、週刊誌にあること無いこと書かれ、大いに引っ掻き回された。 身包み剥がされ、社会的に抹殺され……見ず知らずの人達に、犯されまくったような気分だ。 それに耐え切れなかったんだろう。 離婚調停中だった恋人からアッサリと別れを告げられた母は、支えを失い、家の中に閉じ籠もり、塞ぎ込むようになってしまった。 その原因の一端は、『僕』だ。 母自身も知らなかった事実──僕が、性犯罪者との間に生まれた子供だという事が、広く知れ渡ってしまったのだから。 それともうひとつ。 精密検査後、医師立ち合いの下で受けた警察からの事情聴取で、僕があまりに非現実的な内容を話した事と、複雑な家庭環境を理由に……精神障害アリとの診断を下されてしまった。 PTSDに加え、統合失調症。或いは、離人感・現実感喪失症ではないか、と。 統合失調症とは──幻覚や幻聴、妄想、感情表現の減少等を引き起こす精神障害。 離人感・現実感喪失症とは──自分自身の身体や感情、思考や感覚等が失われたように感じ、また、周りの世界から切り離され、非現実的に感じる症状。 つまり…… 黒川光だと思っていた人物は、『僕』自身の事で。身体から切り離されたように、意識だけが浮上した僕が、『第三者(別人)』に成り代わって、僕を観察していた……という事らしい。 しかし、精密検査の結果──僕の体内から、精液は検出されなかった。 ──当たり前だ。 僕は、精神障害者でも何でもないんだから……

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