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第61話
「………話は終わりだ」
スッと立ち上がり、強張った顔つきのまま、横峰を上から睨みつける。
一方的に打ち切られ納得のいかない横峰は、口の片端を吊り上げ苦笑いをしてみせる。
「……オイオイ。そりゃねぇだろ。
こっちは持ってる情報、全てくれてやってんだ──」
「なら、続きは後日。俺が対応する。……それでいいな」
ピシャリとそう言い切ると、拾った伝票を握り潰す。
「………ハァ? いい訳ねーだろ」
ガッッ、
首根っこに刺青の入った腕を絡まれ、強引に引き寄せられる。と同時に、その手が僕の頭を包み、男の肩へと導かれる。
鼻につく、ヤニの臭い。揺れた髪と首筋から漂う、香水に混じった、男の臭い。気付けば、男に身を委ねたような姿となり、気が動転しておかしくなる。
「……」
「俺は、丸山透から直接聞きてぇの。何せコイツは、生き証人なんだからよォ──」
凄んだ眼で睨み上げ、小山内を煽るように威嚇する横峰。
「──離せ!!」
ダンッ──
テーブルに片手を叩きつけ、身を乗り出す先生。手に当たったんだろうか。お冷やのグラスが、カタン…、と高い音を立て転がる。零れる水。広がったそれに薄らと映る、伸ばされたもう片方の腕。僕を抱き寄せた横峰の肩を鷲掴み、力尽くでテーブルの方へと引き寄せる。
「……これ以上無礼なマネをしたら、許さねぇからな……」
「了解」
血走った眼。眉根を寄せて凄む、小山内。
僕から手を離し、飄々とした顔で両手を上げる横峰。
ニヤついたその態度に、嫌悪の表情を覗かせながら、弾くように小山内が手を離す。
「……但し、向こうから俺に近寄ってきたのなら──話は別だぜ」
余裕げに服の乱れを直し、ボイスレコーダーを拾い上げた横峰が、負け惜しみとも取れる言葉を吐き、席を立つ。
「………有り得ねぇな」
片手をひらひらとさせ、去っていく横峰。その背中を睨みつける先生が、ボソリと吐き捨てると、くしゃくしゃになった伝票を拾い上げた。
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