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第60話

「肩を持つようで悪ぃが…… 溝口は、お前に何の危害も加えてねぇんじゃねぇか?」 「……ぇ」 核心に迫った台詞に、ドクン……と胸が大きな鼓動を打つ。 「そもそも、お前を誘拐する気でいたンなら、死体の転がったあの小屋へなんか、わざわざ連れていかねぇよ。 ましてや、そこで手出ししようなんざ……思わねぇだろ」 「……」 箱から煙草を一本取り出すと、直ぐには火を付けず、吸い口を下にしてテーブルにトントンと数回音を立てて落とす。 「確かに溝口は、初恋を拗らせた小児性愛者のクズだ。 ……けどよォ。クズならどんな罪を着せてもいい、なんて訳はねぇよな」 「……」 解るだろ、お前なら──横峰の眼が、僕を試すような目付きに変わる。 でもそれは、同時に僕を責め立てているようにも見えて…… 「お前が真実を話さねぇ限り、真相は藪の中。……警察が作り上げたシナリオ通りの結末になっちまうんだゼ」 「……」 じゃあ……、どうすればいいんだよ。 これ以上、何をどう話せっていうんだ。 ……まるで僕が、本当の事を話さないせいだって、言い方じゃないか…… 身体が、震える。 心に重くのし掛かる、罪悪感。 ぞわぞわとした感覚が胃の底から圧し上がり、不安と不快感が覆い被さるように襲う。 「もし最初の証言通り、『一人』でいたんだとしたら…… お前は何の為に、あの小屋へ行ったんだ」 鋭く見下げる双眼。責め立てる視線。 片端を吊り上げた口から発せられる、情の欠片もない台詞。息と共に吐き出されるヤニ臭さが、更に嫌悪を増す。 胸元を片手で押さえ、少しだけ背中を丸めたまま、男を見上げる。 「……」 この状況に、押し潰されそう。 ……呼吸が……苦しい…… 「ちゃんと、正直に答えろ。 あの日のお前の行動を、最初から最後まで、包み隠さず……全部──」 「……」 尋問とも、恐喝とも取れるその態度に、恐怖心が膨れ上がり…… 指先が、唇が、震えて止まらない── はぁ……はぁ…… 柔く瞬きをすれば、眼の縁に溜まっていた涙が零れ……頬を伝う。 ──ドンッ、 「止めろ!」 テーブルを叩く音に、心臓が飛び上がる。 見れば、腰を浮かせた小山内先生が、吊り上がった眼を潤ませ、横峰を睨みつけていた。

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