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第66話

事件が発覚してから── 僕も知らない真実が明らかになっていって。……否応なしに覆される。 でも…… 「全てが、嘘だったなんて……思いたくないんです。 僕に差し伸べてくれた手や、向けてくれた優しい眼差しまで。……全部」 「………優しいんだな、丸山は」 ぽん…… 大きくて温かい先生の手が、僕の頭に乗せられ……わしゃわしゃと大きく掻き混ぜる。 「……」 その瞬間、胸の奥がふわっと温かくなるのが解った。 その行為が、以前感じたような嫌悪に満ちたものではなく。 擽ったくて、心地良くて……胸の奥が、きゅう、と柔く締めつける。 「それで、いいんじゃないか」 「……ぇ」 思っても見ない言葉に、瞼が持ち上がる。 だって、そんな風に思ったら……黒川が可哀想だと言われて、否定されると思っていたから。 「綺麗な思い出まで汚す必要なんて、無いだろ?」 「……」 じん、と熱くなる胸。 泣きたくなる程に、切なくて。嬉しくて。苦しくて。身体が、胸の奥が……心地良く震えて。 ……何だか、変な感じ。 「………、ん」 この感覚が、一体何なのか。よく、解らない。 けど……これでやっと、踏ん切りがついた気がする。 このままで、いい訳がない。 明日、ジャーナリストの横峰さんに連絡して、本当の事を話そう。 例え信じて貰えなくても。僕が話す事で、溝口先生の罪が正しく裁かれるなら── * たった数分。 なのに、すっかり空に闇が掛かり、低い位置にある月が、やけに大きくて、明るく見える。 だけど。姿を消してしまった夕陽は、茜色の夕映えだけを残し……もう、戻っては来ない。 それでも──変わらず虫の音が響き……姿を隠したまま、ここに居るよと訴え続ける。 「引っ越し、いつするんだ?」 動きを止めた先生の手が、スッと離れていく。 いよいよこれでお別れなんだと思ったら、妙に冷静になる僕が顔を覗かせる。 「……今週末です」 答えながら、封筒と手提げ袋を胸に抱く。 「場所は、もう決まってんのか?」 「……はい。都内に母の知り合いがいて。暫くはそこに間借りさせて貰う予定です」 「………そうか」 吐息と共にそう言うと、先生が口を噤む。

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