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第67話

母が一緒とはいえ……不安が無いと言えば、嘘になる。 いずれ母に恋人が出来、母の興味がその人に移ってしまえば……家族に居場所が無くなり、僕はまた肩身の狭い思いをするかもしれない。 新天地では、またマイナスからのスタートを切る事になる。そこからゼロに近付くべく、新たな人間関係を築いていかなければならない。 ……そんな事、出来るんだろうか。 たった一人で。こんな僕に。 「……」 たった一人……馴染みのない遠い親戚に引き取られる事になった黒川くんも、こんな気持ちだったのかな。 「……先生」 『僕と、家族になって下さい』──最後の別れ際にそう言った、黒川くんの気持ちが……今なら痛い程に解る。 「先生は、僕に黒川くんを重ねて見た事は……ありますか?」 淋しい……先生と、離れたくない。──そんな台詞を僕が吐いてしまったら、先生を勘違いさせてしまうかもしれない。溝口先生のように。 「……ないと言ったら、嘘になるな」 視線をそっと上げて先生の顔色を窺えば、少しだけ困惑した表情の瞳が、僅かに揺れていた。 「丸山の姿を通して、あの頃の黒川に想いを馳せ……今どうしているのかと想像した事なら、何度かある」 「……」 それは──今でも先生が、黒川くんを想っているから。 「だが、丸山を黒川だと思って接した事は、一度もない」 「……ぇ」 ハッキリと否定され、今度は僕が困惑する。 揺れた瞳に映る先生は、何処の誰でもない……真っ直ぐ僕だけを見つめていて── 「丸山と黒川は、全然違う」 「……」 包容力のある、優しい眼。 「確かに最初は、似ていると思っていた。容姿もそうだが……中々周りに溶け込めず、孤立した姿もな。 境遇のせいで、あからさまな態度や嫌な事を言う輩もいるのに。傷付いて、辛い筈なのに…… 丸山は、嫌な事をひとつせず、そんな奴らにも笑顔を向け、積極的に関わろうとしていた」 「……」 「誰にでも出来る事じゃ無い」 「──!」 先生の真っ直ぐな言葉に、胸を打たれる。 思うより先に目頭が熱くなり、瞬きする度に、伏せた睫毛を涙が濡らす。

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