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第68話
こんな風に、僕を見ていてくれていたなんて……思ってもみなかった。
でも──
「買い被り過ぎです、先生。……僕は……」
僕は、そんなにいい人じゃない。
強くもない。
自信がないから。認められたいから。
だから、学級委員という仮面を被って、自分弱さを隠していただけ……
「……買い被りなもんか。もっと自信を持て!」
「……」
「丸山を心配して、励ましてくれる仲間なら、ちゃんといるじゃないか」
そう言って、先生が手提げ袋に視線を移す。
「大丈夫だ。……お前なら、大丈夫。
今は不安でいっぱいだろうが、……向こうに行っても、丸山自身をちゃんと見てくれる人は、必ずいるから」
「……」
……どうして。
どうしてもっと早く、気付けなかったんだろう。
小山内先生の優しさに。人との繫がりに。
手提げを抱える手に、ぎゅっと力を籠める。
「……すみません。
僕、この前先生に……酷い事、言ってしまいました」
自分本位な考えで。黒川くんにも、非道い事を……
痺れる指をそのままに、頭を下げる。
「気にするな」
ふわ……
喫茶店での事を素直に謝れば、瞳を緩め口角を持ち上げた先生が、再び僕の頭に手を乗せる。
「………」
……何だろう……
たったそれだけで。その一言で。
さっきまであったこの先の不安が、この村での蟠りが、みるみる小さくなって……
心の奥がふわふわして……あったかい……
きっと、黒川くんも……こんな気持ちだったのかな。
睫毛を伏せ、唇をきゅっと引き結ぶ。
溝口先生に感じていたものとは、違う。理想の父親のように感じているのは……同じなのに。
喫茶店で横峰に詰め寄られ、僕を庇ってくれた時もそう。──それまで先生に抱いていたものとは違う何かが、僕の中に息吹き始めたのを確かに感じていた。
──離れたくない。
もう少し、先生と同じ時間を過ごしたい。
でも、そんな事……言えない──
「……」
少しだけ涼しくなった風が吹き、悪戯に僕の横髪を乱す。
頭を上げ、濡れた睫毛を持ち上げれば、先生の指がその横髪を梳いた後、僕の頬を包む。
大きくて、安心する……温かい手。
「………元気でな」
「……」
涙が、視界で次第にぼやけていく。
空を染めていた茜色の光は、もう地平線近くの空から消えかかろうとしていた。
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