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第1話 ハンドルネーム:ペルソナ

 才能に溢れる音楽家は湧き出る泉のように楽曲が溢れてくる。 聴覚を失った作曲家は奏でる音の振動が見えてくる。 盲目のピアニストには常人には聞こえない音階が聞こえてくる。 そんな才能が僕に一つでもあれば僕たち家族はバラバラにならずに済んだのかもしれない。  ピアニストの夢を息子へ託し、三歳から英才教育を受けてきた僕はピアノと母親が世界のすべてだった。 今年、その母親は自身のピアニストとしての夢を捨てきれず母国のドイツへと帰ってしまった。母さんらしいアクティブであっぱれな決断だった。 当然母さんは僕がドイツへ一緒に付いて行くもの確信していたが、僕は両親を繋ぎとめたくて父さんと一緒に日本に残ると言い張った。 母さんが少し悲しい顔をしてそれでもピアノを選んだときはどうにもショックだった。  八月という中途半端な時期に親の離婚で東京の高校へと転入することになった。 まあ今回も日本で良かったかなとどこか冷めたように思った。  十七歳という多感な時期に、転校生である僕はどこにいても目につく存在だった。 おにぎりが整列しているような黒髪と学ランが並ぶ教室に、カールした栗色の髪、茶色の瞳、程よく彫りのある目元に伏せる睫毛までも透き通るように色素が薄い。 ドイツ人混じりのクオーターである僕にとって日本の学校では新参者の浮いた存在となってしまうからだ。 女子がいれば間違いなく好意の対象となるが転勤族である家庭環境のおかげで、友達も恋人も作る必要がない。 今回は残念ながら男子校。「長身のガイジンが来た」とバスケ部やバレーボール、陸上部などに熱烈なコールをいただいたが、今回も全て断ることになった。  僕の新しい学校はスポーツ校として勢いを伸ばしている男子高校だ。歴史はまだ浅いが寮も完備されており、県外から受験する生徒も多くいるらしい。 毎朝グラウンドのあちこちで朝練に励む生徒の声が響く。 野球部の気合の入った掛け声、バスケットリングに弾むシュート音、決められた掛け声にマラソンする陸上部。 僕はそれを横目に毎朝音楽室へと通う。 朝練のない吹奏楽部に代って僕は毎朝ピアノを拝借し、目的のない自主練を続けていた。 指を動かしていないと不安になるからだ。   そんな繰り返しの学校生活に季節はあっという間に冬を迎えようとしていた。   「あ、ペルソナさん新しい動画アップしてる」  

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